今回は測定下限値についてご紹介します。NanoDrop微量分光光度計はサンプルの吸光度を測定し、吸光度情報からサンプル濃度を算出します。
Thermo Scientific™ NanoDrop™ One/OneC微量分光光度計ではRNAをサンプルとし、台座で測定した際の測定範囲は1.6~22,000 ng/µL(10 mm光路長換算の吸光度として0.04~550に相当)とされております。ただ、測定可能下限値に近いサンプルの測定ではさまざまな注意が必要です。今回、実際に濃度の異なるRNAサンプルを測定し、サンプル濃度の違いが測定値に対してどのような影響を及ぼすかを確認しました。
▼こんな方におすすめです!
・吸光度測定を実施されている方
・超微量分光光度計をご利用・ご検討の方
Webサイト(thermofisher.com/jp-nanodrop-setup)にある動画資料も併せてご参照ください。
3つの異なる濃度での測定(濃度・測定吸光度への影響)
今回はNanoDrop One/OneC微量分光光度計を用いて、3種類の異なる濃度のRNAサンプルの測定を行いました。これらはすべて同一のRNA溶液から希釈しています。今回、おおよそ100 ng/µL、20 ng/µL、5 ng/µLに濃度調整したRNAサンプルについて20回ずつ反復測定を行いました。反復測定は毎回サンプルを交換して連続的に実施しました。
測定結果を図1に示します。
NanoDrop One/OneC微量分光光度計はサンプル濃度に対して誤差範囲が規定されています。RNAをサンプルとした場合、100 ng/µL以下の濃度では±2 ng/µL、それ以上の濃度では±2%(CV)が保証されており、今回の測定結果は誤差範囲内に収まる結果でした(図1A)。サンプル濃度の計算元である260 nmの吸光度については20回の測定で大きな測定値の誤差は認められませんでした(図1B)。これらの結果から、濃度が低いサンプルでも大きな誤差なく測定ができていることを確認しました。ただし算出される誤差範囲はどの濃度域でも非常に小さく、差異も認めませんでしたが、平均値を”100”とした際の相対値は最も濃度の低いサンプルではややばらつきが確認されました(図2)。つまり低濃度サンプルでは誤差は小さくとも、実際の測定平均値からのばらつきはやや大きくなることが懸念されました。

図2:各測定濃度平均値を100とした際の相対値を示す箱ひげ図
3つの異なる濃度での測定(吸光度比への影響)
吸光度比はサンプル中のコンタミネーションを推定するための重要な指標の1つです。サンプルを下流のアプリケーションに供する際に夾雑物の影響を考慮する必要がある場合、吸光度比は有用な情報です。
サンプル濃度の違いと吸光度比について図3に示します。
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図3:サンプル濃度と吸光度比情報
サンプル濃度が高いほど吸光度比は安定して算出されている一方で、低濃度サンプル由来の吸光度情報から算出した吸光度比は濃度が高いサンプル由来から算出される吸光度比と比較し、やや異なる値を呈し、誤差も大きいことが確認できました(図3)。
しかし、260 nm、230 nm、280 nmの吸光度の誤差は、低濃度サンプル由来でもその他のサンプルと比較でも大きな差異は認めませんでした(図4)。
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図4:サンプル濃度と関連波長域吸光度
ただ、測定濃度間の吸光度情報では単純な比較は難しいため、平均値を”100”とした際の相対値で確認をした結果、低濃度測定で得られる吸光度は平均値よりばらつきが大きくなる傾向を示しました(図5)。
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低濃度サンプル由来の吸光度をもとに算出した吸光度比が高濃度サンプルと異なる影響は、このわずかな誤差に依存する可能性が高いことが示唆されます。
また同じ吸光度比でも、A260/A230の方がA260/A280よりも、測定サンプル濃度の影響を受けやすい可能性も示唆されました(図6)。
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まとめ
今回はNanoDrop One/OneC微量分光光度計で測定可能な低濃度サンプルの測定精度について、3種類の異なる濃度からなるRNAサンプルを用いて20回の反復測定を実施しました。
NanoDrop One/OneC微量分光光度計はRNAをサンプルとし、台座での測定では1.6 ng/µLから測定可能ですが、実際には核酸測定においては20 ng/µLに満たないサンプルを測定した際にインフォーメーションアラート※を表示する仕様となっております。
※インフォーメーションアラート

サンプル濃度が一定基準を満たさない場合に表示されるインフォーメーションアラートの内容は「When the DNA or RNA sample concentration is approximately 20 ng/µL or less, the purity ratios are unreliable because the sample spectrum is fairly flat and the calculated purity ratios are close to zero.」と表示され、低濃度サンプルから得られる吸光度スペクトルは平坦になりやすく、結果、純度比はゼロに近くなることから、純度比情報の信頼性は低くなるという内容です。
ただ、実際に得られる純度比情報は、サンプル濃度がたとえ基準濃度を満たしていなくとも一定以上確保されていることが確認されました。サンプル濃度が低い場合は、吸光度比情報にばらつきが生じやすいことが確認され、その要因として、各波長域の吸光度のわずかな誤差に依存する可能性が高いと示唆されました。
NanoDrop微量分光光度計は低濃度のサンプルであっても吸光度、濃度、吸光度比情報を表示することが可能です。ご注意点としては、測定されたサンプルの濃度によって、得られた結果についてご検討いただく必要があることです。
測定時に表示されるインフォーメーションアラートが1つの目安となりますが、インフォーメーションアラートが表示されない吸光光度計では測定時の吸光度スペクトルグラフが目安となります。
スペクトルグラフ全体ががたついているようなサンプルの場合、注意が必要です(図7)。
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また今回検証に使用したRNAサンプルは精製度が十分なサンプルでした。もし測定サンプルになんらかのコンタミネーションの可能性が懸念される場合、各波長域の吸光度への影響も考えられます。そのようなサンプルの場合、濃度以外の測定結果についても精査する必要があると考えられます。NanoDrop微量分光光度計にて吸光度測定後に表示される濃度情報や吸光度情報について信頼できる測定値かどうかを判断する際に今回のブログをご参考にしていただければと思います。
このシリーズではThermo Scientific NanoDrop微量分光光度計による吸光度測定に関わる情報やTipsをご案内していく予定です。以下リンクより「NanoDrop」に関連するブログ記事をご覧いただけます。
https://www.thermofisher.com/blog/learning-at-the-bench/tag/nanodrop/
NanoDrop One/OneC微量分光光度計について新しく動画マニュアルをご用意しました。
Webサイト(thermofisher.com/jp-nanodrop-setup)にある動画資料も併せてご参照ください。
またNanoDrop微量分光光度計シリーズにご興味のユーザーさまは以下リンクよりデモのご依頼も可能ですのでご活用いただければと思います。
研究用にのみ使用できます。診断用には使用いただけません。









