遺伝子関連の解析技術が研究のみならず産業分野で活用されるようになり、年月が経過するにつれて応用範囲もさらに広がりを見せています。今回は健康食品やその原料の開発に着目して、腸内細菌叢解析や遺伝子発現解析がどのように活用されているかをご紹介します。
▼こんな方におすすめです!
- 食品分野で新技術を使った開発の事例にご興味をお持ちの方
- 細菌叢解析や遺伝子発現解析が食品の開発研究にどのように使われているか知りたい方
- 食品の開発研究で使える解析手法に興味をお持ちの方
腸内細菌叢解析
腸内細菌叢はヒトを含む動物の腸内に存在する細菌の集団を指し、健康状態や疾患、食生活と密接な関係があります。糞便サンプルから細菌の種類や割合を調べることができ、その解析手法は時代を追って以下のように変遷し、網羅性や精度が向上しています。
- 特定の種類の微生物が増殖する選択培地に希釈したサンプルをまき、形成されるコロニーを数えることによりサンプル中の各種微生物の数を算出する培養法
- 16SリボソームRNA遺伝子の制限酵素断片の長さをキャピラリーシーケンサで調べるTerminal Restriction Fragment Length Polymorphism(T-RFLP)法
- 次世代シーケンサを用いて16SリボソームRNA遺伝子や微生物ゲノム全体の配列を解読し分類する方法
機能性表示食品の届け出に腸内細菌叢解析が用いられた事例
機能性表示食品は2015年から開始された制度で、事業者が機能性および安全性の科学的根拠を消費者庁に届け出ることにより、健康維持、増進に関する食品の機能を表示できます。特定の食品やサプリメントを一定期間摂取したグループと摂取しなかったグループで腸内細菌叢の解析を行い、比較した臨床試験のデータが機能性表示食品の届け出に用いられています。熱殺菌されたラクトバチルス・ガセリ株の菌体を含む錠剤を摂取することによる、腸内環境への影響を調べた例などがあります1。
食品の研究開発に用いられる遺伝子発現解析やトランスクリプトーム解析
遺伝子発現解析は、メッセンジャーRNAの量を測定することで、各遺伝子の機能発現の変動を知ることができます。定量PCRやデジタルPCRが個別の遺伝子の発現解析に用いられる一方、マイクロアレイや次世代シーケンサを用いて全ての遺伝子の発現変動を測定するものをトランスクリプトーム解析と呼びます。

これらの方法が食品の研究開発に用いられた例として次のようなものが挙げられます。
- サラシアという植物の抽出物が人体にどのような影響を及ぼすかを探索する目的でトランスクリプトーム解析が用いられました2。
- 果物に由来する特定の成分が細胞に働きかける仕組みを検討するために、培養細胞の遺伝子発現解析が行われた例があります3。
まとめ
- 腸内細菌叢解析が機能性表示食品の届け出に用いられています。
- 遺伝子発現解析やトランスクリプトーム解析が、食品の研究開発に用いられています。
さらに詳しく知りたい方へ
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参考文献:
- Nishida, K.; Sawada, D.; Kuwano, Y.; Tanaka, H.; Rokutan, K. Health Benefits of Lactobacillus gasseri CP2305 Tablets in Young Adults Exposed to Chronic Stress: A Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Study. Nutrients 2019, 11, 1859. https://doi.org/10.3390/nu11081859
- Oda Y, Ueda F, Utsuyama M, Kamei A,Kakinuma C, Abe K, et al. (2015) Improvement in Human Immune Function with Changes in Intestinal Microbiota by Salacia reticulata Extract Ingestion: A Randomized Placebo-Controlled Trial. PLoS ONE 10(12): e0142909. doi:10.1371/journal.pone.0142909
- Tanaka, K.; Kawakami, S.; Mori, S.; Yamaguchi, T.; Saito, E.; Setoguchi, Y.; Matsui, Y.; Nishimura, E.; Ebihara, S.; Kawama, T. Piceatannol Upregulates SIRT1 Expression in Skeletal Muscle Cells and in Human Whole Blood: In Vitro Assay and a Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled, Parallel-Group Comparison Trial. Life 2024, 14, 589. https://doi.org/10.3390/life14050589
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