過去20年で、低分子医薬品の開発から高分子医薬品の開発に移行が進んでいます。現在、バイオ医薬品は医薬品市場の上位半分以上を占めています。このような中、バイオ医薬品の開発から品質管理において、イオン交換クロマトグラフィーを利用したインタクトタンパク質の分離が広く行われるようになりました。なかでも、チャージバリアントの分析は、バイオ医薬品の安全性や効能を確保するために非常に重要な分析の一つです。
一般的にチャージバリアントの分析は、イオン交換カラムを使用した以下二つの移動相を利用します。
- 塩グラジエント
- pHグラジエント
ここでは、チャージバリアントの分析を行う際に重要な塩グラジエントとpHグラジエントの違いをご紹介します。
■塩グラジエント
バイオ医薬品の場合のインタクトタンパク質として、一般的にモノクローナル抗体(mAb)が知られています。塩グラジエントでは、このmAbとナトリウイオン(Na+)がIEX(イオン交換)固定相のイオン交換基を奪い合います。塩濃度が高くなるにつれ、イオン交換部位の争奪でナトリウムイオンがmAbに勝っていくため、mAbは溶出し始めます。塩グラジェントでは、このmAbはカラム全体の連続的な相互作用を通して溶出されるため、カラムの長さが長いほど分離が良好になります。
■pHグラジエント
pHグラジエントを使用する場合、mAbは固定相のイオン交換基に結合します。その後、pHを次第に上昇させていきます。mAbの電荷が等電点(pI)において全くチャージをもたない状態(ニュートラル)になると、mAbは遊離し、溶出します。塩グラジエントとは異なり、これ以降は固定相との相互作用が発生しないため、カラムの長さは分離にほとんど影響しません。
塩グラジエント、それともpHグラジエント?
塩グラジエントは一般的で、多くの人が使い慣れていて、特に問題なく使われています。しかし、今のやり方に固執することが最良なのでしょうか?
そこで、塩グラジエントとpHグラジエントの考えられる欠点をまとめてみました(下記参照)。
▼塩グラジエントの欠点
- 分析時間が長くなる&バックプレッシャー(背圧)が高まる
- カラムの仕様で定めている圧力範囲を超え、カラムの充填剤を破壊するおそれがある。
- 最適な分離条件を検討するための手間と時間がかかる
- 高塩濃度バッファー中にサンプルがある場合、カラムヘッドで溶離液とのバッファー交換が起こるおそれがある
- 移動相とサンプルの塩濃度が大きく異なるため、分離が低下する。
▼pHグラジエントの欠点
- 再現性のある直線のpHグラジエントを生成することが難しい。
- プログラムされたグラジエントのpHを実測すると、グラジエントが曲線になったり、再現性が悪くなったりする場合がある。そのため、グラジエントを形成するためにpHバッファー原液を調製することは決して簡単ではない。
また、動画で分かるpHグラジエントによるチャージバリアント分析も合わせてご参照ください!
まとめ
mAbのチャージバリアント分析におけるイオン交換クロマトグラフィーは、塩グラジエントまたはpHグラジエントで行うことができます。いずれのアプローチにも利点と欠点がありますが、特に近年のpHグラジエントバッファーの改善により、バッファー調製の問題はほとんど解決し、高分離かつ高い再現性で迅速にメソッド開発と分離を行なえるようになりました。そのためpHグラジエントによるアプローチは大変魅力的なものとなっています。
以下に関連情報を掲載しておりますので、ぜひご覧ください。
関連情報
✔NIBRTアプリケーションノート(英語):チャージバリアント分析のためのThermo Scientific™ CX-1 pHグラジエントバッファーの詳細情報を掲載。
✔バイオ医薬品特性解析に関する情報:『Biopharmaceutical Characterization Application Compendium』(バイオ医薬品特性解析アプリケーション集、英語)
研究用にのみ使用できます。診断用には使用いただけません。