Native MSとXL MSによるタンパク質の構造解析
2017年のノーベル化学賞の受賞テーマは、「クライオ電子顕微鏡法の開発」でした。クライオ電子顕微鏡法は、従来のX線結晶構造解析で必要である結晶化が不必要であり、NMR(核磁気共鳴法)では難しかったタンパク質複合体などの巨大分子を分析することが可能なため、構造生物学がますます発展していくことが期待されます。
このページでは、次世代の構造生物学において重要な分析方法である「クライオ電子顕微鏡法」や「X線結晶構造解析」の解析結果を補完するNative MSとXL MS(クロスリンキングMS)をご紹介します。
Native MSとは
タンパク質複合体の質量を、高い精度で解析することができる方法の一つです。
水溶液中では、タンパク質はネイティブ構造をとっています。このとき、その極性基は水分子間の水素結合やイオン結合により安定化しており、芳香族側鎖は水分子間のファンデルワールス相互作用により安定化しています。
このように弱い相互作用によって結合しているタンパク質複合体を変性させず(結合を破壊せずに)、ネイティブ構造を保ったままイオン化させて解析するのがネイティブMSの特長であり、観測された質量から、複合体組成、多量体構造、ストイキオメトリー、低分子化合物の相互作用因子を確認できます。
Native MSの特長
- 精製度が不十分なサンプルであっても解析が可能
解析可能なタンパク質の情報例
- 精製タンパク質の品質
- 複合体組成
- タンパク質組成の均一性
- ストイキオメトリー
- 低分子化合物との相互作用
XL MS(クロスリンキングMS)とは
XL MS(クロスリンキングMS)とは、「位置が固定されている」タンパク質‐タンパク質相互作用を分析します。その結果、タンパク質がシグナル伝達カスケードや遺伝子発現制御、エネルギー(ATP)産生などの生物学的プロセスにどのような影響を与えているかをより深く理解するのに役立ちます。
タンパク質サンプルを質量分析用の化学的クロスリンカーで架橋して、得られたクロスリンクされたタンパク質をトリプシン消化します。そこで得られたペプチド混合液をショットガンプロテオミクスと同様に、液体クロマトグラフィー(LC)で分離し、質量分析(MS)により同定します。
XL MS(クロスリンキングMS)の特長
- 相互作用因子のショットガン検出が可能
解析可能なタンパク質の情報例
- タンパク質相互作用
- タンパク質構造
- タンパク質複合体のダイナミクス
まとめ
MSは構造生物学における高分解能構造解析を補完する技術です。
今回ご紹介したNative MSは、精製度が不十分なサンプルであっても解析可能であり、サンプルの状態を迅速にモニターできるのが特長です。精製度・精製タンパク質の品質、複合体組成、タンパク質組成の均一性、ストイキオメトリー、低分子化合物との相互作用などを明らかにすることに利用できます。
一方、クロスリンキングMSは質量分析を用いてワークフロー化された解析手法です。相互作用因子の情報をショットガンプロテオミクスと同様の分析手法で得ることができます。タンパク質相互作用解析、タンパク質構造、タンパク質複合体のダイナミクスの情報を得ることができます。
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研究用にのみ使用できます。診断用には使用いただけません。