はじめに
RNAは分解しやすいもの。みなさまそんなイメージをお持ちの方がほとんどではないでしょうか。以前の記事(【やってみた】RNAを常温で放置してみた)では、どれくらい分解しやすいかを調べるため、常温または70℃で、最長4時間までRNAを放置してみた結果を紹介しました。詳細は以前の記事を参照いただくとして、常温では4時間放置してもまったくといっていいほど分解は見られず、ご覧いただいた多くの方は「意外に大丈夫」という印象をお持ちになったのではないでしょうか。
ただ、そこで気になるのは「もっと長く放置したらどうなるか?」ということです。そこで続編として、今回は2週間まで延長して放置してみました!
材料と方法
材料:
- RNAサンプル(HeLa細胞からInvitrogen™ PureLink™ RNA mini kitで精製したtotal RNA 5 ng/μL)
- Applied Biosystems™ TaqMan™ Fast Virus 1-Step Master Mix
- Applied Biosystems TaqMan™ Gene Expression Assays(18S rRNA、Beta catenin)
放置条件:
- RNAサンプルを常温で放置(放置中の温度幅は20~23℃)
- 放置時間:0時間~2週間(0時間、4時間、8時間、24時間、48時間、72時間、7日間、14日間)
分解度の評価方法:
- リアルタイムPCR(Applied Biosystems™ StepOnePlus Real-Time PCR Systems)と、Agilent™ 社製BioAnalyzer™ で測定
結果
さっそくですが、結果です。
常温で放置したところ、初日のうちは分解はほとんど見られませんでしたが、それ以降では徐々に分解し、14日後ではRIN値が2.9まで下がり、明らかな分解が認められました(図1、図2)。
BioAnalyzerのエレクトロフェログラムを見ても、放置0時間に対し、放置14日間では小さい断片が多く見られ、明らかに分解していることがわかります(図2)。
前回の結果と比べると、ちょうど70℃で2時間処理したRNAが、常温で14日間放置したRNAと同等の分解を示しました。
続いてリアルタイムPCRの結果です。放置0時間のRNA(赤線)と14日間のRNA(青線)はわずかにずれているものの、その差であるΔCT値は小さく、分解の影響は限定的でした(図3)。18S rRNAの方がΔCT値が大きいのは、増幅産物長がBeta cateninよりも長いためです(リアルタイムPCRのデータの解釈は前回の記事をご参照ください)。
ΔCT値から大まかな分解度を計算してみると、18S rRNAでは20.34 ≒1.27倍の差(約79%に減少)、Beta cateninでは20.20 ≒1.15倍の差(約87%に減少)という値が得られました。差が非常に小さいためあくまでも参考程度の値ですが、全体の1~2割がリアルタイムPCRでも検出できないほどに分解した、という解釈もできそうです。
まとめ
- 0時間から14日まで、精製したRNAを常温で放置して分解度を評価しました
- 放置1日後にはやや分解が見られ始め、7日後にはRIN値が5を下回るくらい分解が進みました
- 放置2、3日くらいであればRIN値は8程度で、一般的な実験には耐えうる程度の品質でした
- リアルタイムPCRの結果では、0時間と14日放置のサンプル間で、わずかにCT値の増加が見られましたが、ΔCT値は小さく、影響は限定的でした
いかがでしたでしょうか。
常温で2週間も放置するとさすがにRNAは分解してしまいましたが、リアルタイムPCRのデータを見る限り、実験系への影響は意外にも少ないと感じられる方も多いのではないでしょうか。
とはいえ、分解の影響を受けやすい実験系もあるでしょうし、なにより余計な影響が少ないに越したことはありません。RNAサンプルを使用したあとは忘れずにディープフリーザーにしまいましょう。
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