今回は、シングルユース製品を使用する前に必要となる抽出物・浸出物(E&L)試験の概要を、当社のシングルユースバッグの性質と合わせて前編と後編でご紹介します。前編はE&L試験データの重要性や抽出物と浸出物の違いを説明し、そのあとシングルユース製品とE&Lの規制ガイドラインについて説明します。
こんな方におすすめです!
・シングルユース製品のE&L試験について知りたい方
・シングルユース製品のE&L試験結果の解釈にお悩みの方
・当社シングルユースバッグに使われているフィルムの性質を知りたい方
E&L試験データの重要性について
設備投資額の低減やバッチ切り替えがスムーズになり、オペレーションコストも削減されるといったメリットから、バイオ医薬品の研究開発や製造段階にシングルユース製品が導入される機会が増えました。シングルユースのバッグやチューブ、コネクターなどは、前述の利点がある一方、材料にポリマーのほか、複数の添加材が使用されているため成型工程で構造変化を伴います。バイオ医薬品製造のプロセスで広く用いられている容器(コンテナ)や包装材は、医薬品製造の過程で生じる中間体および最終製剤と直接接触した際、相互作用を起こし化合物が溶出するリスクがあります。特にバイオ医薬品では溶出物が医薬品の立体構造を変化させ、医薬品の有効性・安全性に影響を与えるリスクが高いと考えられています。医薬品を製造する際、浸出した化合物が医薬品の安全性に影響を及ぼさないことを証明する必要があるため、E&L試験データは重要です。
これらの高分子材料中の化合物が医薬品へ浸出することで体内に摂取され、治癒効果に影響を及ぼすことや、毒性を発現することが懸念されています。そのため、バイオプロセシングで使用されるシングルユース製品について、培養液やバッファー、原薬など、さまざまな性質の液体と接することで生じる溶出物の評価が重要です。
抽出物と浸出物の違い
抽出物(Extractables)とは、さまざまな時間にわたり、有機溶媒、高温、極端なpH条件など制御されたラボの条件下で、極限または誇張された条件に暴露した場合にシングルユースバッグ、構成部品、システム、あるいは装置から放出される有機化学成分および無機化学成分のことを指します。抽出物試験を行うことで浸出物を予測でき、工程間の装置と容器システムの選択に役立ちます。
一方、浸出物(Leachables)とは、有機化学成分および無機化学成分であって、工程間の装置および容器から浸出したもの、ならびに最終製品に移行したものを指します。これらの成分は、通常の保管・使用条件下や加速化した薬剤安定性試験中に、材料、部品、構成部品、システム、あるいは機器に直接触れた結果、浸出したものです。浸出物試験は、製剤の組成選択および処理装置と容器システムを用いた製剤の適合性評価に役立ちます。
つまり、抽出物試験は通常では使用しないような温度やpHなどの条件も考慮した試験、浸出物試験は通常使用する条件で溶出する物質の有無を調べる試験といえます。浸出物試験で検出された物質が、必ずしも抽出物試験でも検出されるわけではありませんが、どちらもリスク評価を行う上で重要な試験です。
シングルユース製品とE&Lの規制ガイドライン
当社シングルユース製品の一つに、培地や試薬といった液体の保管や動物細胞・微生物の培養時に使用するシングルユースバッグがあります。形状としては、主に培地などの保管に向いている2Dのバッグや、シングルユースバイオリアクターやファーメンターでの細胞培養および微生物培養に使用されるような3Dのものがございます(図1)。

図1. シングルユースバッグの例
2Dシングルユースバッグと3Dシングルユースバッグ
シングルユースバッグに使用されるフィルムには主に図2に示す4種類があります。その中でも当社が開発したAegis5-14とCX5-14はどちらもcGMPに準拠した施設で製造された5層構造の14milキャストフィルムで、バリアー性が高く、培地や試薬などを安定して保管できます。Aegis5-14とCX5-14は同じ構造ですが使用される酸化防止剤の種類が異なり、Aegis5-14はCX5-14に使用される3種類の酸化防止剤のうち、CHO細胞の一部に増殖阻害が生じるIrgafos168を使用しない方法で開発されたフィルムです。Aegis5-14はフィルムの性質はほぼCX5-14と同等でありながら酸化防止剤の種類は1種のため、CHO細胞の培養により適した材質となっております。
これらシングルユースバッグをはじめとするシングルユース製品は1回使い切りであるため、クロスコンタミネーションのリスクを低減させることができる一方、化合物が医薬品に溶出する懸念があります。シングルユース製品を用いてバイオ医薬品を製造する際、シングルユース製品の製造プロセスへの適合性を評価し、規制当局に提出するリスクアセスメントを作成するために、E&L試験データを取得することが重要です。

図2. 当社取り扱いフィルムの構造
アメリカ食品医薬局 Food and Drug Administration、通称FDAは、アメリカ合衆国保険福祉省配下の政府機関で、食品や医薬品、化粧品、医療機器、動物薬、たばこ、おもちゃなど、消費者が通常の生活を行うにあたって接する機会のある製品について、その許可や違反品の取り締まりなどを専門的に行っています。FDAは、CFR 21にて、医薬品製造に使用する装置、薬剤容器や管理方法などについて定めています。例えば、薬剤容器は医薬品の安全性や品質などを、確立された要件を超えて変化させるようなものを使用してはならないこと、薬剤容器に使用されるラベルや着色にははがれにくく退色しないしにくいものを使用することなどといった記載があります。これらの要件を満たすためにも、E&L試験は重要となります。
では、E&Lデータ取得のプロトコルや濃度の基準は定められているのでしょうか?E&L試験の条件は現状、明確に確立されていません。基本的には、試験対象となる材料の特性や使用方法に基づき、ワーストケースを想定してオーダーメード形式でプロトコルを構築する必要があります。一方で、PQRI、BPOGなどの団体や、USP、ISOなどの規格において、E&L試験のガイドラインが発行されています。その中には使用すべき溶媒、処理時間、温度などが明示されています。使用した溶媒による抽出物の極性との関係、副反応の可能性、毒性の高いため留意すべき化合物などの記述もあることから、これらのガイドラインの情報も加味してプロトコルを構築することが推奨されています。
その中でもBPOGは、世界のバイオ医薬品の商業生産能力の約80%を占める企業の集まりで、「バイオ医薬品製造に使用されるポリマー製シングルユースシステムからの溶出物リスク評価のためのベストプラクティスガイド」および「バイオ製造におけるシングルユースシステムのための標準化された抽出物試験プロトコル」を発表しています。これらの文書は、抽出物および浸出物の試験原則として、バイオ医薬品およびバイオ医薬品供給業界全体で支持を集めています。上記はFDAで評価基準として正式に認められた規制文書ではありませんが、バイオ医薬品製造にかかわる多くの企業が所属しているため、BPOGのプロトコルを使用することで、E&Lデータの比較を可能にします。
まとめ
前編では、バイオプロセシングにおけるシングルユース製品の抽出物と浸出物の違いや、シングルユース製品とE&Lの規制ガイドラインについてお伝えしました。後編では、BPOGのE&L試験プロトコルや、その結果の解釈についてお伝えします。
今回ご紹介した2Dシングルユースバッグおよび3Dシングルユースバッグをはじめとする当社のシングルユースバッグは再生医療クリエイティブ・エクスペリエンス・ラボ(Thermo Fisher Scientific Creative Experience Lab for regenerative medicine: T-CEL)にて見学が可能ですので見学を希望される場合はこちらへお問い合わせください。
また、シングルユースバッグに関する関連資料は、下記リンクよりご確認いただけます。
【無料ダウンロード】シングルユーステクノロジー製品関連資料
研究用または製造用にのみ使用できます。診断目的の使用、ヒトおよび動物への直接的な使用はできません。