溶融押出混練(HME)による連続生産は、製造効率の高さと経済的なメリットから、さまざまな分野で関心が高まっています。HMEは主に機械的にせん断力を利用した混合プロセスですが、製剤によっては化学反応を伴うこともあります。HMEでは、医薬品有効成分(API)を熱可塑性ポリマーもしくはその他の結合材と共に溶融・混練し結合させることで独自のポリマー構造を形成します。ポリマーを適切に設計することでAPIとポリマーの架橋構造が生まれ、薬物のバイオアベイラビリティを向上させることができたケースもあります。今回は、HMEプロセスにおけるインラインAPI濃度モニタリングに近赤外分光装置(FT-NIR)を使用した事例を紹介します。
- FT-NIRが得意とする定量測定とHMEを組み合わせることでプロセス中における成分濃度のモニタリングができる
- 製造現場での活躍に期待
- 特に医薬、食品、飲料、化学分野での活用にピッタリ
HMEプロセスと近赤外スペクトルの測定
HMEプロセスには11 mm径の二軸スクリューエクストルーダーThermo Scientific™ Process 11を使用しました。スクリュー長と直径の比(L/D)が40:1のプロセス域に3つの混練ゾーンが設定されています。

図:Thermo Scientific Process 11のスクリュープロファイル
原料はケトプロフェン(API)とオイドラギット™ L100-55(ポリマー)で、プレブレンドされた原料はゾーン1に投入されました。ゾーン2から8は溶融・搬送の工程で、ゾーン9でバレル形状から円形オリフィスに圧縮後、排出されます。出口ブロックを120℃に保持し、原料の供給速度を100 g/Hourに設定しました。

図:ケトプロフェンとオイドラギット™
スペクトルの取得には、HME用拡散反射プローブを装備したThermo Scientific™ Antaris™ II FT-NIRアナライザーを使用しました。反射プローブには取り付けねじがあり、HME出口オリフィスのセンサーポートの1つに設置できます。

写真:Thermo Scientific Process 11の押出口とNIRプローブの配置
測定のポイント
混練機排出部にNIRのプローブをセットし、排出される原料のモニタリング測定が可能
<測定条件>
HME中のAPI濃度を予測するための定量モデルを構築するため、プレブレンドAPI/ポリマー比を40から60%まで変化させ、APIの目的濃度50%(w/w)を含む範囲としました。近赤外のデータ取得はRESULT™ソフトウエアを用い、スペクトル波数領域4,000~10,000 cm-1、分解能8 cm-1、積算回数16回で行い、20秒間隔で1スペクトルを測定しました。下記にスペクトルを示しますが、ベースラインのドリフトが見られます。要因の1つとして、HMEプロセス中に形成された気泡による光の散乱と光路長の変動が考えられます。

図:押出工程で得られた近赤外スペクトル
定量モデルの作成と安定性
<定量モデルの作成>
Thermo Scientific™ TQ Analyst™ソフトウエアを用いて、ケトプロフェン濃度を推定するPLSモデルを構築しました。スペクトルのベースラインドリフトの影響を除去するために二次微分処理を適用し、光路長変動を最小化するために標準正規変量(SNV)を適用しました。作成した検量線の相関係数は0.998、二乗平均平方根誤差(RMSEC)は0.43%、検証後の予測二乗平均平方根誤差(RMSEP)は0.62%でした。

グラフ:APIの検量線
<温度に対する安定性の実験>
作成した定量モデルが混練物の温度変化に対して安定した結果を示すことができるか、実験を行いました。プレブレンドAPI比を50%(w/w)、供給速度を100 g/Hourに維持しながら、110℃から130℃まで温度を上昇させたときのAPI濃度の予測値の変化を見てみましょう。Aの図には、110℃、120℃、130℃におけるホットメルトサンプルの2次微分近赤外スペクトルを示しています。6,900cm-1 uw付近の顕著なスペクトル変化はOH結合に由来し、温度によって影響を受けていることが分かります。作成したAPI濃度の定量モデルは、温度による影響を受けないように、5,500~6,650 cm-1 のスペクトル範囲を指定しました。Bの図は、実際のHMEプロセスにおける温度変化をプロットしたものです。110℃から130℃の温度変化の間、APIの予測値は49~51%で推移し、作成したPLSモデルが+/-10℃の温度変動に対しても良好な結果を与えることが示唆されました。

グラフ:プロセス温度の堅牢性に関する実験
(A)各温度における近赤外スペクトル(B)温度が±10℃変化した場合のAPI予測値の変化
まとめ
連続生産では製品の一貫性を確保するために、重要なパラメーターのインプロセスモニタリングが必要です。今回はFT-NIRをインラインHMEプロセスモニタリングに用い、ケモメトリックスと組み合わせて実験を行いました。ターゲットに関連する近赤外スペクトル領域を慎重に選択し、API濃度予測のための良好なPLSモデルを作成しました。構築されたモデルは+/-10℃の温度変動に対しても安定した予測値が得られることも示されています。近赤外によるモニタリングによる知見は、プロセス開発から製造に移行する際にも活用が期待できます。
Thermo Fisher Scientificが販売しているFT-NIRの詳細は下記をごらんください。
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