リアルタイムPCRにSYBR™ Greenを使われている方で、こんなお悩みを持っている方は意外と多いのではないでしょうか。
「非特異的な増幅が起きてしまっている」
「反応条件が悪いのではと感じるが、どう条件を変えればいいのかわからない」
そこで今回は、お悩みを解決するSYBR Green反応系の条件最適化について、ご紹介します。
▼もくじ
理想的な反応条件になっているかの確認方法
SYBR Greenの反応系の場合は「非特異的な反応が起きていないか?」を確認する必要があります。
SYBR Greenは反応液中に存在するすべての2本鎖DNAを検出するため、非特異的な増幅もターゲットの増幅も同じ増幅として検出され、区別がつかないからです。そもそもSYBR Greenは2本鎖DNAの間に入り込んで(インターカレートして)蛍光を発する色素です。そのため、仮にプライマー同士が結合して生成されてしまったプライマーダイマーであっても蛍光が検出されます。目的の増幅産物以外も検出するため、もし仮に非特異的な増幅があった場合、こちらもPCRの増幅と誤って捉えてしまいます。
目的以外の増幅が起きていないかを確認するためには解離曲線(Dissociation curveやMelt curve)を引きます。これはリアルタイムPCR装置にプログラムとして組み込まれており、PCR反応の後に続けて実施します。仕組みは簡単です。ゆっくりと温度を上げつつ、蛍光値のデータを回収するだけです。温度を上げていくと、ある温度に到達したときに、それまで2本鎖であったDNAが1本鎖に解離します。この温度がTm値です。Tm値は増幅産物の長さやGC含量といった配列によって変わります。そのため別の増幅産物がある場合、Tm値が異なりますので、蛍光値の変化が2回みられることになります。
この蛍光値の変化を見やすくするために蛍光値を微分したのが、図1の右下にあるグラフです。ピークは蛍光値の劇的な変化が起きた温度(=Tm値)に出ます。
図1 解離曲線の描画の原理と概念図
ピークが1つであれば増幅産物は1つ、ピークが複数あるようであれば増幅産物が複数あるといえます。図2は複数のピークが見られる例です。もしこのように複数のピークがあるようであれば条件の最適化が必要となります。
図2 複数のピークがみられる例
プライマー濃度の最適化
いよいよ反応条件の最適化の話です。
1つ目の方法はプライマー濃度を変えることです。一般的にプライマー濃度が高い方が非特異的な増幅も起こりやすいです。非特異的な増幅がみられている場合は、プライマー濃度を下げると改善する場合があります。たとえば、Applied Biosystems™ PowerUp SYBR Green Master Mixは、300〜800 nMの範囲のプライマー濃度で最適に機能します。一般的には濃度が濃い方がPCR効率が高くなりますので、最初は濃い条件で試して、上手くいかない場合に薄い条件で試すのがオススメです。
また必ずしもforwardとreverseの濃度が一致している必要はありません。場合によってはどちらかのプライマーのみ濃度を変更することで改善するケースもあります。プライマー濃度の適切な範囲は、マスターミックスによって決まります。製品情報を確認の上、濃度を変えてください。
反応条件 温度の最適化
非特異的な増幅はAnnealing/Extensionの温度を上げると改善する傾向があります。一般的なAnnealing/Extensionの温度は60℃ですが、これを1℃刻みで64℃程度まで上げて非特異的な増幅がなくなるか確認します。
ただ、温度を変えるということは別々にランしなければいけないのかと、面倒に感じる方もいらっしゃるでしょうか。もしお使いの装置がApplied Biosystems™ StepOneplus™リアルタイムPCRシステムや Applied Biosystems™ QunantStudio3/5リアルタイムPCRシステムのようなVeriFlexを搭載している装置であれば独立した温度制御が可能ですので、1回のランで複数のAnnealing/Extention温度を検討できます。設定方法などの詳細をご希望であればテクニカルサポートにお問合せください。
最後の手 プライマーの再設計
濃度を変えても、温度を変えても改善しないという場合はプライマーを再設計します。
プライマーダイマーを含む非特異的な増幅が起こるかはプライマーの配列に左右されます。濃度や温度を複数条件試しても改善しない場合は思い切って新しいプライマーを設計するのが早いです。さまざまな条件を試すよりもプライマーを新しくする方がコスト面でもお得な場合があります。
まとめ
SYBR Greenで解離曲線に複数のピークがみられる場合は、非特異的な増幅が起きており、定量的な結果が得られていません。また、プライマー濃度やAnnealing/Extensionの温度条件の最適化によって改善する場合もあります。それでもダメな場合は思い切ってプライマーを再設計することをオススメします。
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