前回の「ハイブリ温度を変えてみた」では、ハイブリダイゼーション時の温度を変えることで解析結果にどのような影響が及ぶのか試してみました。今回の実験では、もうひとつの重要な要素である「時間」に着目して影響を調べてみました。
実験方法
Applied Biosystems™ GeneChips™ WT PLUS Reagent kitを使用して、キットに付属するControl HeLa RNAを基にハイブリダイゼーションカクテルを調製しました。カクテルの調製工程におけるサンプル間差をなくすために、一度1つに混ぜ合わせてから分注したものを使用しています。アレイ種はApplied Biosystems™ Clariom™ S human arrayを使用しました。また、ハイブリダイゼーションの時間は、プロトコルに記載されている16時間を基準に、延長時の上限として推奨している18時間、そして丸1日実施した24時間とさらに48時間まで延長した4点(n=2)で評価しました。
実験結果・考察
Applied Biosystems™ Transcriptome Analysis Console(TAC)で解析したデータを下記にお示しします。16時間の発現解析結果を基準に18~48時間の結果と比較解析してみると、発現が変動していると判定された遺伝子は18時間と24時間では120~130種程度ですが、48時間では約2倍の251種まで増加したことがわかりました。内訳を見てみると、Up-Regulated(18~48時間側)の割合が徐々に減少し、Down-regulated(16時間側)の割合が増加していることが読み取れます。つまり、ハイブリダイゼーション工程を長時間行うことにより、発現量が低下している可能性が示唆されました。

図1. 発現変動遺伝子数

図2. 各アレイのシグナル強度
しかし、シグナル強度の分布データを見てみると24時間や48時間のデータではシグナル強度はむしろ一部で高くなっています。なぜこのような結果になったのでしょうか?それはバックグラウンドノイズが影響した可能性があります。
長時間のハイブリダイゼーションによる影響として懸念されるのは、非特異的な結合に伴うバックグラウンドノイズの上昇です。例えば、長時間高温の状態が続くことでハイブリダイゼーションカクテルが蒸発して析出した成分がアレイ上に付着する場合や、カクテルが濃縮されることでハイブリダイゼーションの効率が変化する可能性が考えられます。実際にデータを見てみるとバックグラウンドのシグナル値は18時間以降から増加傾向にあることがわかりました。

図3. バックグラウンドシグナルの比較
マイクロアレイは、各遺伝子の発現量を算出する際にシグナル値からバックグラウンドのシグナル値を差し引く工程があります。よって、より多くの値が引かれたために発現量が実際よりも低く見積もられてしまったのではないかと考えられます。
まとめ
ハイブリダイゼーションの時間を延長すると、バックグラウンドノイズが増加する可能性が示唆されました。ハイブリダイゼーションの際は、当社が推奨している16~18時間を守れるよう余裕を持った実験計画で実施していただきますようお願いします。
関連オンラインセミナー
マイクロアレイの遺伝子発現データを解析してみましょう
~無償解析ソフトウエアTACのご紹介~
基礎からわかるマイクロアレイによる遺伝子発現解析セミナー
~マイクロアレイの原理から使用例のご紹介~
関連ハンズオントレーニング
今日から始めるマイクロアレイ : ハンズオントレーニング
~マイクロアレイの原理からデータ解析まで~
研究用にのみ使用できます。診断用には使用いただけません。