ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)は、目的のタンパク質の検出および定量化を高感度で行う手法の一つです。一方、高感度であるが故にちょっとした手技上の問題が測定結果に影響を及ぼしてしまうことがあります。そのため、実験時にはより高精度、より再現性の高い実験操作を求められます。その中の一つとして「できるだけ気泡ができないように」ということもよく言われますが、やはり気泡が残ってしまうことがあります。このような時、注射針やピペットチップでつついても小さな気泡は割れず、マイクロピペットで吸い取ると今度は液量が変わってしまうため、どうするのが得策か悩ましい限りです。
弊社で開催しているELISAハンズオントレーニングにご参加いただいた方のそんな率直な疑問から、ELISA測定時にウェル内に気泡が生じてしまうとどの程度の影響が出るのかやってみました! また、簡単な解決策も考えてみました!
皆さまも、どういう結果になるのか予想してみてください。
①ほとんど影響ない
②吸光度が上がる
③吸光度が下がる
▼こんな方におすすめの記事です!
・ELISAを始めたばかりの研究者
材料と方法
材料:
P38 MAPK (Total) Human ELISA Kit
方法:
キットに含まれるスタンダードを利用して、キット付属のプロトコルに従って反応させ、Thermo Scientific™ Multiskan™ GO 吸光マイクロプレートリーダーで450 nmの吸光度を測定しました(n=6)。その後、マイクロピペット(FINNPIPETTE)を用いて96ウェルプレートの各ウェルに1 µL、3 µL、5 µLの気泡を1個加えて吸光度を測定しました。さらに、それぞれに気泡を加えて測定を行い、気泡が5個になるまで測定を繰り返しました。
結果
1 µLの空気を入れて作り出した小さな気泡の場合、気泡が5個に増えても吸光度に影響は見られませんでした。3 µLの気泡の場合、1個では有意差が見られませんが、2個以上になると気泡の数が増えるにつれ、吸光度は上がっていきました。5 µLの気泡の場合は気泡1個から有意に吸光度の上昇が確認されました。
考察
プレートリーダーはウェルの中心部に光ビームを照射し、透過した光量から吸光度を算出します。1 µL程度の小さい気泡の場合、光の通る中心部には影響が出ませんが、気泡が大きくなる、あるいは気泡が多くなった時に、その表面張力の影響(メニスカス効果)により、光散乱が生じて本来の吸光度よりも高くなったと考えられます。
なお、今回使用したMultiskan™ GOプレートリーダー(後継機:Thermo Scientific™ Multiskan™ Sky)は直径1.2 mmの光ビームを用いて吸光測定を行いますが、プレートリーダーによってビーム径は異なるため、気泡の影響度も異なることが予想されます。
気泡のとり方
さて、気泡があると結果に影響する場合があることは確認されましたが、この記事のタイトルにもある気泡のとり方について「ヘアドライヤーを用いるとよい」という噂を聞きつけ、やってみました。
利用したもの:
家庭用のヘアドライヤー(冷風モード)
方法と結果:
ヘアドライヤーで冷風を出しながら、ELISAプレートに上方からゆっくりと近づけていくと、プレートに20~30 cm程度まで近づいた時点であっけなく気泡が消えました。
まとめ
・気泡が多くなると、あるいは大きくなると吸光度は上がりました。
・ヘアドライヤー(冷風モード)で風を当てると一瞬で気泡を消すことができました。
気泡を消すことについて、ピペットチップを用いたりプレートを遠心分離機にかけたりと苦労していたのが、ヘアドライヤーを用いると写真を取り忘れるほどあっけなく解決できました。お困りの方はぜひ一度お試しください。
弊社ではELISAだけなく、リアルタイムPCRや細胞培養、ウェスタンブロッティングなど、実際に実験(実習)を行いつつ学べるハンズオントレーニングを各種開催しています。その中で今回のような実験結果もご紹介していますので、これから新しい実験を始められる方、より理解を深めたい方はぜひご参加ください!
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