犬の遺伝子はどんな場面で使用されているのでしょうか? 実は、大学や企業での研究開発ステージから、ブリーダー・ペットショップでの血統解析・品種特性の同定・改良に至るまでさまざまなステージで使用されています。今回はその例をご紹介します。
研究開発ステージでの利活用
医学研究では犬を含む多くのモデル生物が使用されています。犬はヒトの疾患や行動パターン相関モデルとして適しているため、犬の研究データは多くの研究機関で重要視されています。
犬は他の哺乳動物と比較して表現型の可塑性が非常に高く、品種間でサイズ、行動、体型、および病気の感受性に大きな違いがあります。この多様性により、さまざまな骨格や筋肉に関連する遺伝子研究の理想的な対象となっています。また、人間の感情を読み取るように何千年もの間飼育されており、行動に関する遺伝的基盤の研究に役立ちます。さらに、犬の食事は人間の食事と似ているため、犬は他の実験動物ではまねできない食事や代謝状態についての洞察を与えてくれます。
犬に関する現在の研究プログラムの例としては、1. ちゃんと咳をすることができない脊髄損傷患者の肺感染の予防研究、2. 糖尿病患者のための自動血糖値モニターとインスリンポンプの開発、3. ナルコレプシー状態を理解するためのナルコレプシー神経学の研究に用いられます。
血統解析・品種特性の同定・改良
また、犬のブリーダーやペットの飼い主は、犬の遺伝情報からの恩恵を受けています。ペットの取引、ハイステータスショー、医学研究の目的で飼育している場合でも、飼育者は犬の血統、病気のリスクや、遺伝的な健康状態を確認するためのツールを必要としています。例えば、パグの呼吸困難やダックスフントの股関節形成不全など、特定の品種に特有の健康問題の発生率を減らしたいブリーダーにとっては特に重要です。正確な遺伝子情報は、系統繁殖を正しく導き、特定の研究プログラムに適した特性を備えた新しい遺伝系統を作り出すこともでき、さらにはペットの飼い主に獣医学的補助となる情報を提供することができます。
これらの遺伝的特性を理解するには遺伝子型を判別することから始まります。残念ながら、従来の遺伝子型判定方法は複雑で費用と時間がかかります。これは、適切なサンプルサイズを維持して多数の犬の遺伝子型情報を入手するには多額の予算を必要としますが、これはつまり遺伝子型情報はほとんどの獣医師やブリーダーの手の届かないところにあることを意味します。これらの障壁を取り除き、犬の遺伝情報を多くの獣医師やブリーダーの方に利用いただくため、革新的なアッセイが求められています。それぞれの犬の遺伝子型プロファイルに素早く幅広くアクセスすることで、研究や繁殖のオペレーションはより複雑な質問に簡単に対処でき、犬や人間の健康を改善すると共に、最初の飼いならされた動物を理解することができます。
サーモフィッシャーサイエンティフィックの犬遺伝子型判定ソリューション
サーモフィッシャーサイエンティフィックのApplied Biosystems™ Axiom™ Genotyping Solution for Agrigenomics製品は、これらの可能性の実現に一役貢献します。この製品は、ブリーダーや研究者に複雑な犬の遺伝形質を特定、検証、スクリーニングするための強力なジェノタイピングツールを提供します。Applied Biosystems™ Axiom™ Canine HD Arrayは、71万を超えるマーカーの解析を可能にしますが、ここには品種マーカー、疾患マーカーやリサーチコミュニティ由来の遺伝子シグネチャー、さらにはCanFam3リファレンスゲノムからの最新の特定された情報が含まれます。Applied Biosystems™ Axiom™ Canine HD Array の開発由来としては、Axiom Screening Set AおよびBアレイを使用して、50品種をカバーする2,000を超えるサンプルをスクリーニングすることによって開発され、そして多型情報を最大限網羅するために適切な血統で慎重に選択されています。従って、Axiom Canine HD Arrayは犬の遺伝学研究を成功に導くために必要な機器、専門知識、および時間を削減します。さらに、Axiom Arrayは、ヘテロ接合性の喪失、コピー数の検出、およびその他の高度な遺伝学的研究を可能にするさまざまな解析ツールを備えています。これらの情報は、特にがんやコピー数変異による疾患に代表されるような、ヒトや犬の疾患機序解明において重要となってきます。このように犬の遺伝学的性質を深く広く探求することで、人間と犬の両方の利益に供する新しい探求の道を切り開くでしょう。
サーモフィッシャーサイエンティフィックは 、次世代シーケンシング(NGS)ソリューションを用いたツールも提供しており、ゲノム情報を高い正確性かつ安価で迅速に提供することが可能です。Applied Biosystems™ AgriSeq™ targeted genotyping-by-sequencing(GBS)は、非常に効率的なマルチプレックスPCRケミストリーを利用して、単一のPCR反応で数百から数千もの所定のマーカーに対応するアンプリコンライブラリーを生成します。得られたライブラリーにはバーコードを付け、次世代シーケンス装置のIon Torrent™ システムを用いて数百サンプルの所定のマーカー群を一度にシーケンスすることができ、1日あたり数百万の正確なジェノタイピングデータを産出します。これらのツールは、犬の集団全体の遺伝子型を特定することを可能にし、生物学や病気における遺伝学の役割を広範囲に調査することを可能にします。また、ブリーダーは繁殖用ストック全体の遺伝型情報を確認することができ、より応用可能な獣医師ケアを促進し、系統繁殖により良い情報を提供します。
サーモフィッシャーサイエンティフィック AxiomジェノタイピングソリューションやAgriSeq targeted GBSソリューションの詳細については当社までお問い合わせください。
まとめ
・医学研究で、ヒトの疾患や行動パターン相関モデル動物として、犬の遺伝情報が使用されています。
・ブリーダー・ペットショップでの血統解析・品種特性の同定・改良に、犬の遺伝情報が使用されています。
研究用にのみ使用できます。診断目的およびその手続き上での使用はできません。