身近になった次世代シーケンサ(NGS)ですが、シーケンスのランニングコストが高く、失敗してしまったらどうしようか・・・そのように心配なさっている方はいらっしゃいませんか。NGSの成功率を高めるには、クオリティーの高いライブラリーを準備することが重要であるといわれています。
そこで今回は、NGSのライブラリー作製のコツついて、ご紹介いたします。
▼こんな方におすすめです!
・NGS解析をこれから始めたい方
・NGSのライブラリー作製がうまくいかない方
・スループットが伸び悩んでいる方
▼もくじ
何より大切!サンプルの準備
ライブラリー量が十分に回収できない、シーケンスデータを見てみると各領域のカバレッジが均等になっていないというような経験はありませんか?NGSではサンプルクオリティー、特に「量」と「質」がシーケンスの成否に直結することが多いため注意が必要です。トラブルを起こしやすいものとして代表的なのがパラフィン包埋切片(FFPE)から核酸を抽出する場合です。古いFFPE検体は組織標本としての利用を前提に固定されたものが多く、分子生物学実験で使用するには固定が強すぎるため、核酸の顕著な断片化が起こっていることがあります。このような検体では核酸の回収量も少なく、状態も厳しいため、ライブラリーの収量低下やデータの偏りを招きます。一度「ゲノム研究用病理組織検体取扱い規定」と固定方法を照らし合わせてご確認いただくことも有効です。新鮮凍結組織検体の場合はFFPEと比べると断片化が起こっている危険性は低いですが、基本的には組織採取後すみやかに凍結する、液体窒素に浸漬して急速凍結するなどの処置を行うことで分解を抑えられることがあります。RNAを用いる場合はDNAよりも分解しやすいため、採取後すぐに組織中のRNaseの活性を効果的に抑制することが可能なInvitrogen™ RNAlater™シリーズなどをご利用いただくこともおすすめです。
参考:
・ 「ゲノム研究用病理組織検体取扱い規定」(一般社団法人 日本病理学会)
・ 「RNAの安定化」
核酸のクオリティーチェックは入念に!
核酸のクオリティーチェックのポイントは「核酸の濃度」、「純度」、「断片化度合い」の確認という3点です。
濃度と純度双方を確認することに関してはThermo Scientific™ NanoDrop™紫外可視分光光度計などの吸光度測定が有効です。NanoDropはわずか1~2 µLのサンプル量のDNA、RNA、タンパク質を数秒で正確に定量することができ、吸収スペクトルを確認することで、同時に純度を推定することも可能です。例えば、DNAならA260/A280が1.8前後、RNAなら2.0前後であればある程度純度が高いと考えられます。また、吸光スペクトルのピークが270 nmにある場合はフェノール、230付近にある場合はエタノールの混入が疑われます。しかしながら、吸光度測定では、DNAとRNAを区別して検出することができない、非常に微量な検体の場合は濃度測定が難しいという側面もあります。そのため、吸光度測定だけでなく、Invitrogen™ Qubit™ Fluorometerなどの微量かつDNA/RNAを特異的に検出できる蛍光測定装置との併用をおすすめします。Qubitは0.005~2,000 ng/µL(dsDNA)と測定範囲も広く、幅広いサンプルに対応できます。
関連Page : Invitrogen Qubit 4 Fluorometer
また、FFPEサンプルや抽出から長い年月が経過しているサンプルなどは断片化チェックも重要です。リアルタイムPCRを用いたDNAの断片化を評価する方法をぜひお試しください。サンプル量をある程度確保できそうであれば、顕著に断片化している場合でも、ビーズ精製などにより短い核酸を除去することでライブラリー作製が可能になるケースもあります。断片化状態とともに量をご確認いただくことをおすすめします。RNAの場合は、Agilent 2100 バイオアナライザ電気泳動システムもしくは類似のシステムにて18Sおよび28S rRNAのピークを測定しRIN値を算出することで分解度の判断をしてください。
ライブラリー作製のコツ
サンプルの状態、量の確認が終わりましたら、いよいよ実際にライブラリー作製を行う段階に移ります。「よく混合すること」、「プロトコルを守ること」が作業上のポイントです。一般的に次世代シーケンサのライブラリー作製には多くの試薬を使用し、また通常のPCRよりも広範囲の領域を対象としています。反応性を安定させるため、ピペッティングの際によく混合されていることを目視で確認することが大切です。その際には酵素が失活しないよう泡立てないことにも注意してください。また、ビーズ精製ではエタノールの残存や、風乾のステップでビーズを乾燥させすぎることが収量に影響しますので注意が必要です。そして、地味ですがとても大切なことがあります。それは、多検体を処理する前に、まず少数検体で操作に慣れるところから始めること、ライブラリー作製プロトコルにて指定されているキットや試薬、プレート類をできるだけご利用いただくことという2点です。これらはライブラリー作製の時間とコストを考えるうえでも非常に重要なポイントです。
参考:
・ターゲットリシーケンス用ライブラリー作製キット:Ion Torrent™ Ion AmpliSeq™ Library Kit Plus
・発現解析用ライブラリー作製キット:Ion Torrent™ Ion Total RNA-Seq Kit v2
・全ゲノム解析用ライブラリー作製キット:Ion Torrent™ Ion Xpress™ Plus Fragment Library Kit
ライブラリーのクオリティーチェックは複数の手法で確認
ライブラリーが完成しましたら、シーケンスに進む前に最後の確認を行います。ライブラリーQCとも表現されることがありますが、ここでは「ライブラリー長」と「濃度」を確認していただきます。
まず、ライブラリー長の確認にはAgilent 2100 バイオアナライザ電気泳動システムおよびそれに準ずる装置が感度的にも分離能的にもアガロースゲル電気泳動より適しています。この段階ではプライマーダイマーやアダプターダイマーの残存、コンカテマーの有無などを確認してください。この結果、ダイマーなどの低分子DNAが残存しているのが確認された場合は、再度ライブラリーをAgencourt™ AMPure™ XPなどで再精製するとよいでしょう。定量も可能ですが、ライブラリーの分布範囲から算出されますので注意が必要です。
ライブラリー濃度を確認するのに最も正確な手法はリアルタイムPCRです。また、Iライブラリー定量にはIon Torrent™ Ion Library TaqMan™ Quantitation KitやIon Torrent™ Ion Universal Library Quantitation Kitを用いることがおすすめです。二本鎖DNAを対象とするインターカレーターを用いる手法ではプライマーダイマーも検出してしまいますが、TaqMan™法を用いることで正しい構造のライブラリーのみを特異的に定量することが可能です。
このように、クオリティーチェックでは用いる装置によって確認できるポイントが異なります。面倒かもしれませんが、実験系が確立するまでの間は複数のプラットホームでクオリティーチェックを行うことで、結果的に実験の成功率を高めることができると考えられます。
ここまでライブラリー作製上の注意点を見直してみました。意外とチェックする項目が多いように見えますが、実は普通にやっていることばかりであるとも感じられたかもしれません。実験系や検体数によって注意すべき点や最適な手法は異なりますが、常に基本に忠実な作業を心掛けることこそがライブラリー作製成功への近道といえるでしょう。
まとめ
・サンプル採取後の処理と保管方法に注意
・核酸の純度と断片化の確認が重要
・ライブラリーの確認ポイントは長さと濃度!
ライブラリー作製でお困りの方は、テクニカルサポート主催のトレーニングサービスもぜひご検討ください!次世代シーケンサのトレーニングやコンサルティングの詳細はコチラ。
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