はじめに
液体クロマトグラフィー(HPLC)で使われている検出器を調べていて「荷電化粒子検出器」というあまり聞きなれない検出器を見つけたことがある方も多いのではないでしょうか?
「荷電化粒子検出器について知りたい」
「使い勝手の良い汎用タイプの検出器を探している」
この記事はそんな方に向けた記事です。
はじめまして。
私はサーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社 クロマトグラフィー&MS事業部に所属している田口と申します。
お客様のクロマトグラフィー&MSライフがどうしたらより楽しいものになるのか、愛するクロマトグラフィー技術とともに日々さまざまなことに奮闘しております。実は仕事柄、セミナーなどで荷電化粒子検出器についてご説明させて頂くことも多いのですが、この検出器の興味深いところは他の検出器にはない特徴があるというところです。
そんな荷電化粒子検出器、さまざまな分野でルーチン分析に使用されていることをご存知でしょうか?
この記事では荷電化粒子検出器の基礎と題しまして、その特徴がよく分かるように、HPLCで一般的に使用される検出器との比較に加え、代表的なアプリケーション例もご紹介します。クロマトグラフィー技術を愛する者としての視点で、他のサイトには載っていないような詳しい情報を分かりやすくお話しようと思います。
液体クロマトグラフィーの検出器
一般的に液体クロマトグラフィーで広く使われている検出器には以下のような種類があります。化合物が検出できるかどうかで選択する検出器は変わるため、簡単に各検出器の特徴と検出できる物質についてまとめました。
- 紫外可視吸光光度(UV/Vis)検出器 :190~900 nmの光を吸収する物質が測定対象。特定の波長の光を吸収する物質だけを検出するので選択性(物質に対する識別能力)がある。
- 蛍光検出器:光を吸収(励起)、光を発する(蛍光)物質が測定対象。特定波長で励起・蛍光する物質だけを検出するので選択性が高い。
- 質量分析計:イオン化する物質が測定対象。物質の質量と電荷に応じた検出ができるため、選択性がとても高い。でも、値段も高い。
- 示差屈折率(RI)検出器:移動相と異なる光の屈折率を有する物質が測定対象。ほとんどの物質は移動相と異なる屈折率を持つので、あらゆる成分が検出可能(汎用性が高い)。
選択性と汎用性
このようにHPLCの検出器にはさまざまな特徴があります。
選択性を持つ検出器の場合、感度を得るという面では大きな利点があるのですが、どうしても苦手なもの(検出できない成分)が出てきてしまうという欠点があります。検出できるかどうかは化合物の特性によって決まってしまうのです。
例えば、UV吸収が不十分な成分や、蛍光を発しない成分、さらにイオン化しない成分というのはたくさん存在します。もし運悪くそういった物質に出会ったらどうしたらよいのでしょうか?
「誘導体化」という選択肢が選べる場合もありますが、誘導体化試薬の選択や前処理の手間を考えると、正直困ることが多いです。
そのような場合、汎用性が高いRI検出器であれば、化合物の特性を気にすることなく簡単に分析できます。しかし、RIは他の検出器に比べると感度が低く、またグラジエント分析が出来ません。その結果、十分な感度や分離を得ることが難しいという課題があります。
このような課題に直面した場合、RI検出器以外の選択肢として思い出して頂きたい汎用検出器が荷電化粒子検出器になります。
荷電化粒子検出器の原理と特徴
荷電化粒子検出器(CAD:Charged Aerosol Detector)は、化合物の特性に大きく左右されない検出原理と感度を持ち、グラジエントによってカラムの分離性能を最大限活かすことのできる汎用検出器です。
Step1:噴霧化@ネブライザー
カラムからの溶出液を窒素ガスで噴霧する事により、細かな液滴をつくります。
Step2:脱溶媒・粒子化@ドライングチューブ
加温により液滴の溶媒が気化し(脱溶媒)、残った成分が粒子になります。
Step3:荷電化@ミキシングチャンバー
生成した粒子にチャージした窒素ガスを衝突させ、粒子表面に静電的なプラスの電荷をまとわせます。
Step4:検出@コレクター
まとわせた電荷を放電し、電流値として計測します。
CADはネブライザーで噴霧した後、脱溶媒してから検出を行います。そのため、揮発性物質は検出できませんが、不揮発性物質であればすべて検出対象になります。また、RIとは異なり、グラジエント分析が可能です。さらに、CADでは粒子に電荷を与えその電荷量を測定することから、粒子の大きさや量(成分量)に応じた面積値や高さが得られます。
同じ分析条件で検出器に入る量が同じであれば、CADは物質の特性に関わらずほぼ同一の面積値を示します。
選択性を有する検出器では化学構造に依存して応答感度が異なるので、無作為に物質を選択・測定すると濃度が一緒でも、化合物によって面積値や高さが変わります。一例として、UV検出器であれば化合物によって60%程度面積値が変わりますが、CADでは10%程度となります。
この特徴を利用すると、別の物質で作成した検量線を使って定量(半定量)が行えるので、標準試料のない物質の量を相対面積値から推定することも可能です。
ちなみに、検出下限は数百ppb程度で比較的良好な検出感度が得られます。
このように、CADは幅広い化合物に対応できるとともに化合物に依存しない一貫した応答性を有したユニークな検出器になります。
荷電化粒子検出器のアプリケーション
検出対象物が幅広いことから、CADのアプリ―ケーションは有機化合物から無機イオンまで多岐に渡ります。
糖分析や、医薬品とカウンターイオン、無機イオンの一斉分析、界面活性剤分析などはさまざまなお客様でご利用いただいているアプリケーションになります。
一方で、成分の含有量に比例した応答性(重量応答性)を利用したアプリケーションとしては、標準試料が存在しない化合物、例えば不純物や天然物の含量確認が挙げられます。それ以外にも、製剤の苛酷試験など、継時的な物質の量的変化のモニターに利用されています。
このようにアイディア次第でさまざまな用途に応用できるCADですが、弊社LC以外にも、Shimadzu(島津)製やWaters製など、他社HPLCシステムにも接続可能です。
まとめ
CADの原理について簡単にご紹介してきました。ラボで広く使われている検出器で困ったときは、是非CADを思い出して下さい!
【CADの特徴】
- カラム検出物の噴霧・気化により生成した粒子に静電的なプラスチャージを与え、その電荷量を計測する原理を有する
- あらゆる不揮発性物質が検出対象
- 化学構造に依存しない一貫した応答性
CADについてもう少し詳しい情報を知りたいという方は、関連情報をご覧いただくか、お気軽にお問い合わせいただければと思います。
関連情報
研究用にのみ使用できます。診断用には使用いただけません。