細胞培養のインキュベーター内は湿潤な状態が維持されていますが、ずっと培養容器を放置してしまい培地が干上がった経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
100 mmディッシュやT75フラスコなどの培地量が多い容器はまだしも、96ウェルプレートのような少ない培地量で培養する場合、蒸発の影響が実験結果にも影響してしまうか心配になります。そこで、インキュベーター内でどれくらい培地が蒸発するのか、培養している細胞にどのくらい影響がでるのか、やってみました!
材料と方法
材料:
- 96ウェル平底プレート(Thermo Scientific™ Nunc™ MicroWell™ 96-Well, Nunclon Delta-Treated, Flat-Bottom Microplate)
- ヒト胎児腎由来細胞株HEK293
- Invitrogen™ alamarBlue™ Cell Viability Reagent
- Thermo Scientific™ Varioskan™ LUXマルチモードマイクロプレートリーダー
方法:
- 96ウェルプレートの外周ウェルにPBS 100 µLを添加したプレート、または空ウェルにしたプレートを用意
- プレートの内側のウェルに2,000 cells/100 µL/wellで細胞を播種し、CO2インキュベーター内で培養
- 培養開始から4日後に以下の測定を実施
(1) 各ウェル内の培地重量測定
(2) alamarBlue蛍光測定 (10 µL/well添加して2時間インキュベーション後に測定)
(3) Hoechst™ 33342で染色しての写真撮影(終濃度1 mg/mL)
※使用したCO2インキュベーターの庫内は、扉が閉まっており、安定な状態で98%程度の湿度でした。
結果
では、結果を見てみましょう。まずは各ウェル内の培地重量です。1ウェルずつマイクロピペットで採取し、微量天秤で測定しました。
外周(36ウェル)にPBSを入れなかったプレートでは、内側の60ウェルの角に相当するB2やG11のウェルで、顕著に液量の低下がみられました(図2A)。角以外にも外周に近いウェルでは中央に比べて蒸発の影響があるようです。
目視でも、角のウェルでは液量が少ないことが明らかでした(図3)。
一方、外周ウェルにPBSを入れたプレートでは、内側のウェルの蒸発は抑えられました(図2B)。
次に、蒸発による培地量の低下が細胞の培養にどの程度影響するのか、alamarBlue試薬による増殖試験を行いました。結果は、外周ウェルにPBSを入れないプレートでは、培地量が低下した角のウェルで明瞭に増殖低下が確認されました(図4A-a)が、PBSで蒸発を抑制したプレートはでほぼ均一な蛍光シグナルが得られました(図4A-b)。
PBSを入れずに角のウェルが蒸発してしまったプレートでは、中央のウェルでは細胞が均一に増殖していましたが、角のウェルでは細胞もまばらで、細胞数も少ないように見えました(図4B)。これは少ない培地量が原因というより、蒸発により培地の組成・濃度が変化したことで最適な培養条件ではなくなったためと考えられます。
さらに、ウェル内の培地の蒸発による影響が有意な差となるか検証するため、図5のようなレイアウトのプレートを用意し、プレート中央付近と外周付近とでalamarBlue蛍光シグナルを比較しました。
結果として、外周が空ウェルのプレートでは、試験群1(プレート中央付近)に比べ、試験群2(プレート外周付近)は蒸発のため細胞数が有意に少ないことが確認されました。一方で外周にPBSを入れたプレートでは、試験群1と試験群2とで有意差はなく、蒸発の影響を抑えられたと考えられます。
プレートの外周付近では蒸発による影響が見られましたが、外周の36ウェルにPBSや滅菌水を入れることでその内側のウェルへの影響を抑えられることが分かりました。ただその一方で、96ウェルのうち3分の1以上にあたる36ものウェルが実験に使用できず、とても残念です。
この問題に対しては、当社のアイデア製品「Thermo Scientific™Nunc™ Edge™ 96-Well, Nunclon Delta-Treated, Flat-Bottom Microplate」(以下、エッジプレート)で解決できます。
エッジプレートは96ウェルの外縁部が堀のようになっており、PBSや滅菌水を入れることで96ウェル全ての蒸発を抑制することができます(図6)。このエッジプレートを使用することで、96ウェル全てで培養が行え、蒸発の影響を抑えたデータを得ることができます。培養細胞のプレートアッセイをされている方はぜひお試しください。
まとめ
- 96ウェルプレートで培養した場合、蒸発により培地量が減少する
- 培地量の減少は細胞の増殖にも有意に影響した
- 外周のウェルにPBSを入れることで、その内側のウェルの蒸発は抑えられる
- エッジプレートを使用することで、96ウェル全てで蒸発を抑えた実験を行うことができる
いかがでしたでしょうか。
96ウェルプレートを使用した実験では外周ウェルが外的環境の影響を受けやすい「エッジ効果」に悩まされることがあります。細胞培養のプレートアッセイでは外周の36ウェルは使用しない、という方もいらっしゃるのではないでしょうか。蒸発の影響の出方は培養期間や培地量、使用する細胞など実験系にもよりますが、今回の検証のように4日間と長めに培養する場合にはエッジプレートをお使いいただくことで96ウェル全てを利用できるのでおすすめです。
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