【やってみた】細胞が培養容器の側面に接着するか確認してみた

はじめに

細胞培養において、接着細胞は培養容器(プラスチックのディッシュやフラスコ、プレート)の底面に接着します。しかし一般的な培養容器は、細胞が接着しやすくなる表面処理が容器全体に行われているため、容器の内壁(側面)にも接着するのではないか、と気になりました。

培養スケールを考える時は、主に底面積を基に播種細胞数や培地量などを計算しますが、側面にも細胞が接着しているようであれば、側面積も考える必要があるかも知れません。

実際のところ、細胞はどのくらい容器の側面に接着するのでしょうか?
それを確かめるため、細胞を培養して容器の側面を観察してみました。

材料と方法

材料:

  • HeLa細胞(ヒト子宮頸がん由来細胞株)
  • DMEM+10%FBS
  • T25フラスコ

方法:

  • 培養したHeLa細胞を5 mLのDMEM+10% FBSに懸濁し、T25フラスコに継代
  • 継代翌日と継代4日後に、フラスコ底面と側面を観察、写真撮影
T25フラスコと観察面培地の液面の高さは約5 mm

図1. T25フラスコと観察面
培地の液面の高さは約5 mm。

結果

播種翌日の細胞の状態aはフラスコ底面から、bはフラスコ側面から撮影。底面から点線のあたり(高さ約600 µm)まで細胞が接着している。

図2.播種翌日の細胞の状態
aはフラスコ底面から、bはフラスコ側面から撮影。底面から点線のあたり(高さ約600 µm)まで細胞が接着している。

まずは播種翌日の状態です。底面の細胞密度はまだ低いです(図2a)。側面を見てみると、底面に近いところは密度が高く、上の方は細胞がまばらでした(図2b)。
播種時にほとんどの細胞は重力によって底面に沈み接着する一方、一部は沈む際に側面に当たり、そのまま接着したと考えられます。
底面からの高さを見ると、おおむね600 µmくらいまでは容器の側面に細胞が接着しているようでした(図2b、白点線)。培地の液面の高さは約5 mmでした。

播種4日後の細胞の状態 aはフラスコ底面から、bはフラスコ側面から撮影。底面から点線のあたり(高さ約1.7 mm)まで細胞が接着している。

図3.播種4日後の細胞の状態
aはフラスコ底面から、bはフラスコ側面から撮影。底面から点線のあたり(高さ約1.7 mm)まで細胞が接着している。

次に、播種4日後の状態です。細胞が増殖し、底面ではほぼコンフルエントな状態です(図3a)。側面はというと、播種翌日に比べて底面から離れたところ(高いところ)にも細胞の接着が確認されました(図3b)。底面からの距離はおおむね1.7 mmほどです。播種時翌日には600 µmの高さまでしか細胞が接着してなかったことから、細胞の増殖に伴い側面の上部1.7 mmにまで培養範囲が広がったものと考えられます。

ここまでで、思いのほか容器の側面にも細胞が接着していることが確認できました。
では、これが培養条件にどう影響するのか、考察してみたいと思います。

まず前提として、側面に細胞が接着する高さは、培養容器の底面積には影響されないとします。つまり、どの底面積の容器を使っても、直立する側面に対して同等の高さまで接着するとします。他の要因として、培地の液面の高さは影響すると思われますが、一般的な培養では液面の高さも同等になるため、ここでは無視します。

表1. 培養容器の底面積と側面の細胞接着面積
床面積(cm2) 側面接着面積(cm2)* 床面と側面の
接着面積比
10cm dish 78.54 3.14 4%
T25 flask 25 1.46 6%
6well plate/35mm dish 9.62 1.10 11%
24well plate 1.91 0.49 26%
96well plate 0.30 0.19 65%
384well plate 0.08 0.12 138%
* 側面接着面積は、底面から1 mmの高さまで接着するとして計算しました。フラスコの側面接着面積はふた側を除いた3面について計算しました(ふた側の1面はなだらかな傾斜で壁面がないため)。

仮に1 mmの高さまで接着したとすると、10 cm dishでは底面積の約4%、24 well plateでは26%、96 well plateでは65%もの培養面積が増えることになります(表1)。384well plateに至っては138%と、底面積よりも広くなってしまいます。
一般的に培養スケールは容器の底面積に比例して、播種細胞数や培地量を調整します。ただ、培養スケールを変えるとなぜかうまく再現性が取れない、という経験をされた方も多いのではないでしょうか。ひょっとしたら、このような細胞が側面にも接着して細胞の密度が変わることが一因かも知れません。
とはいえ、通常の実験では培養容器や播種細胞数などの条件はそろえて実験します。また、接着の弱い細胞ではそもそも側面に接着しにくいと考えられ、結果として多くの実験系では、その影響は限定的で問題となることは少ないのかも知れません。

まとめ

  • 接着細胞は底面だけではなく、一部は側面にも接着することを確認しました。
  • 小さい容器ほど底面積に対する側面の接着面積が大きく、底面積から想定される細胞密度と実際の細胞密度との乖離が大きくなる可能性があります。

いかがでしたでしょうか。
容器の側面にも細胞が接着することは、細胞培養を経験していても考えた事がない方も多いのではないでしょうか。

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