検体中のSARS-CoV-2ウイルスの検出には多くの技術を使用できますが、ゲノム中の突然変異の同定も含めて、ウイルス感染を追跡する疫学研究も早急に求められています。ウイルスの細胞内への侵入に関与することが知られ、ワクチン開発研究における主要なターゲットでもあるSARS-CoV-2のスパイクタンパクをコードする遺伝子において、ある重要な変異が発見されました。ターゲット次世代シーケンス(NGS)は、SARS-CoV-2の全ゲノムをシーケンスし、ほかの分子的な手法では得られないレベルの変異情報を取得することで、サンプル中のSARS-CoV-2ゲノムにおけるすべての変異を検出することを可能にします。
ノースカロライナ大学チャペルヒル校にあるUNCラインバーガー総合がんセンターのVirology and Global Oncology ProgramsおよびUNC Viral Genomics Core 施設の教授兼ディレクターであるDirk Dittmer博士は、NGSを用いた新規ウイルスの発見に焦点をあてています。もともと、彼の研究室はがんに関連するウイルスの発見に取り組んでおり、近年は呼吸器感染症について研究を行っていました。このことにより、SARS-CoV-2ウイルスが都市部からノースカロライナ州の人口密度が低い地域に変遷するのに伴い、迅速にSARS-CoV-2研究を主軸とすることができました。
▼こんな方におすすめです!
・新型コロナウイルスの変異株について知りたい
・感染症研究に興味がある
・自動化次世代シーケンサに興味がある
▼もくじ
SARS-CoV-2解析におけるリアルタイムPCRと次世代シーケンスの使い分け
SARS-CoV-2やその他の感染症において、リアルタイムPCRやNGSなどの分子生物学的な手法は補完的なツールであり、どちらも重要な役割を担っています。リアルタイムPCRはSARS-CoV-2のスパイクタンパクなど特定のキーターゲットの検出に重点を置いているため、医療現場においてウイルスが存在するかを判断するためによく用いられています。
一方で、Dittmer博士はNGSをより多くの科学的に価値のある情報を提供できる手法としています。NGSは、ウイルスの全ゲノムをシーケンスすることで、ウイルスの進化や疾患のリスク、重症度、宿主応答について情報を与える重要な変異を同定することが可能です。Dittmer 博士は、ウイルスゲノムのシーケンスは、インフルエンザやHIVのような他のウイルス性病原体において、ヒトからヒトへの感染経路を追跡する手法としてすでに確立、検証された方法であると説明します。
Dittmer博士は免疫不全やHIV/AIDSについての自身の研究と同様の方針をSARS-CoV-2研究に適用して、スーパースプレッダーやスーパー・スプレッディング現象を特定する目的でターゲットNGSに注力しました。
「私たちは、地理や人種、民族、輸送手段、会衆が異なるコミュニティーでウイルス感染や変異が異なるか、知見を得る必要があります。ウイルスの全ゲノムシーケンスは、特定の状況下においてどの遺伝子が重要であるか、という仮定をおかずに網羅的に解析し、これまで考慮されなかったSARS-CoV-2ウイルスの遺伝子領域を見いだし、変異の過程を追うことが可能となります」とDittmer博士は述べています。
彼は、ウイルスの全ゲノムシーケンスから得た発見が、SARS-CoV-2の生物学に関する新たな知見と、ワクチン開発研究に役立つ新規の創薬標的を生み出すことを期待しています。
SARS-CoV-2 D614G変異株のシーケンス解析
Dittmer博士のチームは世界的な感染拡大が始まった当初から、ノースカロライナ州で主に検出されているSARS-CoV-2株の研究を行っています[1]。この株はスパイクタンパクにおいてD614Gと呼ばれる変異を持ち、アジア由来の元のSARS-CoV-2株よりも感染性が高いと考えられています。NGSは特定のウイルス株の分析が可能であり、スパイクタンパク質に起こりうる潜在的な変異を検出できるため、蓄積したデータはワクチン研究において重要なデータとなり得ます。スパイクタンパク質における潜在的な変異はいずれもワクチン開発研究において考慮される必要があります。この考慮を怠ると、ウイルスが変異を続けた結果、ワクチン候補の有効性が低下してしまう可能性があります。
サンプルからレポート取得までを自動化した次世代シーケンサの活用
彼らの研究では高度に自動化されたIon Torrent™ Genexus™ システムを使用しています。このシステムは自動化が進んでいるため操作は簡便で、解析も自動実行可能です。そのため、NGSやバイオインフォマティクスの経験を問わず、ほぼすべてのラボでNGSを利用できるようになっています。彼はこのシーケンサをIon Torrent™ Ion AmpliSeq™ SARS-CoV-2 パネルのように「あらかじめ定義づけしたアッセイのデータ解析をも実行するクローズシステム」と表現しています。Ion Torrent™ Genexus™ Integrated SequencerとIon AmpliSeq SARS-CoV-2パネルを併せて使用することにより、サンプルから変異レポートの取得までの工程を自動化し、わずか1日で結果を確認することができます。
「SARS-CoV-2のケースや治療方針決定のための情報提供を目的とする場合、結果を得るまでの時間が24時間以上かかるとなると、選択の対象にはなりえません」と博士は述べています。
さらに、迅速に結果を取得できることに加えて、Genexusシステムでは解析サンプル数を柔軟に選択できるという利点があり、少数検体の解析であってもランニングコストを低く抑えることが可能です。
「私たちが、がん臨床試験でNGSを行う際、何か月にも渡ってサンプルを収集し、集まってからまとめてシーケンスを行います。この場合には、迅速性よりもコストや精密さ、正確性がより重要です」
Ion Torrent NGSの自動化されたワークフローにより、Dittmer博士のチームはSARS-CoV-2アッセイにおける手作業のピペッティングをすべて排除できるので、有益な情報をリポートする際に違いをもたらしてしまう、すべてのエラーを追跡することができるようになります。
最後にDittmer博士は、主に他の感染症研究のワークフローを開発する際の探索およびトレーニングプラットホームとして、Genexusシステムを補完するものとして、Ion Torrent™ Ion GeneStudio™ S5システムを使用していることを強調しています。この拡張性のあるIon GeneStudio S5システムはより高いスループットまで選択可能であり、宿主の免疫応答や細菌叢解析、トランスクリプトーム解析を含む幅広い感染症研究アプリケーションを実施可能です。
まとめ
Dittmer博士のような研究者らの貢献により、SARS-CoV-2の生物学や感染パターンについての理解が深まり、ウイルス感染の影響を最小限に抑えるワクチン開発や治療法の創出がより確信をもったものになると期待されます。
Ion Torrent Genexusシステムを体験できるバーチャルデモについてはこちらをご覧ください。
Dittmer博士のSARS-CoV-2研究に関するプレスリリースをご覧いただけます。
研究用にのみ使用できます。診断用には使用いただけません。