下水サーベイランスにおけるデジタルPCRの活用

下水を基にした疫学(Wastewater-based epidemiology, WBE)は以前から存在し、薬物の乱用、化学廃棄物、病原体の追跡に使用されてきました。下水サンプルは輝かしいサンプルとは言いづらいですが、下水サーベイランスはコミュニティ全体の監視に有益な方法であると証明されています。実際に、COVID-19パンデミックの際には、下水を使用してSARS-CoV-2ウイルスを検出し、公衆衛生当局に発症前にアウトブレイクを警告できることが示され、注目されました。

この記事は、ノートルダム大学のSARS-CoV-2および新興公衆衛生脅威研究調整ネットワークの廃水サーベイランスのポスドク研究員であるSarah Philo博士へのインタビューをまとめたものです。どのようにしてこの研究分野に興味を持ったのか、下水サンプルを扱う「楽しみ」についてお話しいただきました。また彼女たちのチームがどのようにして下水中のSARS-CoV-2ウイルスと抗菌薬耐性遺伝子を検出および定量化をリアルタイムPCRとデジタルPCRで行っているかも学びます。

インタビューはAbsolute Gene-ius dPCR Podcast Episodeの Episode 3: The bioinformatic artistry behind PCR assay design からもお聞きいただけます。

▼こんな方におすすめです!

  • 下水サーベイランスに興味がある方
  • PCR技術の公衆衛生への活用事例を知りたい方
  • デジタルPCRが下水サーベイランスにどのように利用されているかを学びたい方

下水サーベイランスとは

インタビュアー:多くの人がSARS-CoV-2ウイルスについて知っていますが、下水サーベイランスについてはまだ学ぶ余地があるように思います。それがどのようなものか、少し背景を教えていただけますか?ご研究の内容と、それにより世界がどのように見えるか教えてください。

Dr. Sarah Philo:この世界がどのように見えるか、それは非常に大きな質問です。歴史的には、人々は何十年も前から下水中のポリオウイルスなどを探していましたし、薬物残留物も探してきました。今では、探索の対象はさまざまな感染症に移行しつつあります。下水でできること、探せるものはたくさんあります。

インタビュアー:そのプロセスについて少し説明お願いします。下水はどのように見えるのですか?

Dr. Sarah Philo:少し気分を悪くする人もいるかもしれないので、どんな見た目か正確には言わないほうがいいかもしれません。サンプルを収集する場所はいくつかあります。パンデミックの間に多く取り入れられたのは、大学キャンパスの寮の排水管や、複数の寮からの排水を収集するマンホールからのサンプル収集でした。これにより、小さなコミュニティでの状況が把握できました。この調査は学生に対して定期的な検査を行っている大学で行われました。実際に病気の学生を隔離することができます。また、病院の排水からもサンプルを収集します。私の博士論文では、下水処理場の開始地点、つまり流入水を収集することが多くありました。これにより、その処理場が集めたすべての廃水の集水域全体の状況がわかりました。

インタビュアー:ほとんど何も知らないので、無知な質問かもしれませんが、実際に誰かが行ってサンプルをすくい取っているのですか?

Dr. Sarah Philo:多くのサンプルは、文字通り誰かがThermo Scientific™ Nalgene™ボトル(1リットルサイズのボトル)を持って行って、バケツですくってそのボトルに入れて回収されたものでした。これは「グラブサンプル」と呼ばれ、単発でサンプリングするものです。自動サンプラーという方法もあります。これはパイプに取り付ける機械で、15分ごとに下水を回収します。これを24時間または12時間かけて行うことで、この間に収集されたすべての下水の複合サンプルを得ることができます。

下水サンプルからの検出方法

インタビュアー:サンプルを収集した後はどうなるのですか?例えば、下水中にSARS-CoV-2を検出したとします。さらにご研究の結果が何か政策の実施につながりましたか?そのデータはどのように役立つのでしょうか?

Dr. Sarah Philo:私の研究が直接政策を導いたと言えればいいのですが、それが私たちの望むところでもあります。しかし、私の研究は主に研究側に焦点を当てていました。パンデミックの初期には、感染者数を推定するという高い目標がありました。それは、どの集水域をみているかによってかなり難しいことです。現在、多くの研究ではトレンドを見ています。SARS-CoV-2ウイルスの量が上昇しているのか、下降しているのか、変動していないのか、そして変異株を探しています。介護施設など長期ケア施設で存在の有無を調べることにも多くの力が注がれています。例えば、老人ホームの下水を検査することができます。そのデータで実際に何が起こるかは、目標によって異なります。

インタビュアー:ウイルスを検出する方法はどのようなものですか?方法について教えてください。

Dr. Sarah Philo:環境阻害物質の影響を受けにくいとして、さまざまデジタルPCRでの解析が行われています。私たちは一貫性のあるデータセットを持つために、最初から使用していたリアルタイムPCRを使い続けていましたが、デジタルPCRほど敏感ではないことは分かっていました。迅速なPCRプロトコルを使用する人もいます。SARS-CoV-2ウイルスと下水に特化した多くの技術が開発され、現在も開発が進んでいますが、ほとんどの作業はリアルタイムPCRとさまざまな形態のデジタルPCRが使われています。そして、変異株の特定にはシーケンシングが多く行われています。

下水研究におけるPCRの活用

インタビュアー:リアルタイムPCRとデジタルPCRの違いについてもう少し詳しく教えてください。デジタルPCRを利用しましたか?ご研究ではどのように利用されましたか?

Dr. Sarah Philo:デジタルPCRシステムを手に入れたのは、研究の途中からでした。SARSに関する多くのデジタルPCR実験は、リアルタイムPCRとデジタルPCRの検出の比較に関するものでした。新しいポジティブコントロールを取得したときは、デジタルPCRで定量化し、その数値が一致していることを確認しました。

インタビュアー:SARS-CoV-2ウイルスの監視にデジタルPCRを他にどのように利用していますか?または、他の生物について監視プログラムを立ち上げるために調査しているものはありますか?

Dr. Sarah Philo:下水サーベイランスの現在の大きな課題は、SARS-CoV-2モニタリングのキャパシティと関心を他のものにどう拡大するかということです。抗菌薬耐性を持つ細菌を探す大きな推進力があります。これは医療において長い間問題となっており、今後も大きな問題となるでしょう。私の博士論文の一部でも抗菌薬耐性について調査しました。2020年後半のCOVIDのピークとともに、抗菌薬耐性遺伝子が増加したかどうかを調べました。病院で抗菌薬が処方されたためです。また、デジタルPCRとリアルタイムPCRの比較も行いました。

インタビュアー:その方法を比較した結果、どのような結果が得られましたか?

Dr. Sarah Philo:リアルタイムPCRとデジタルPCRで抗菌薬耐性遺伝子をテストしましたが、ほとんどすべてでデジタルPCRのほうが高いコピー数が得られました。これは、リアルタイムPCRが環境阻害物質の影響を受けやすいためです。環境サンプルを扱う場合、リアルタイムPCRで最初にテストして大まかな量を把握しておくことが役立ちます。これにより、デジタルPCRを最適化するために、サンプルをどれくらい希釈すればよいかを知ることができます。

インタビュアー:デジタルPCRを使用して、リアルタイムPCRよりも正確に遺伝子コピー数を特定できましたか?

Dr. Sarah Philo:はい、デジタルPCRで検出された遺伝子コピー数はリアルタイムPCRよりも高かったです。これは、下水中の阻害物質がPCRとリアルタイムPCRに影響を与えるためです。デジタルPCRは、これらの阻害物質の影響を受けにくいです。

インタビュアー:デジタルPCRを使用した下水疫学の将来についてどう考えていますか?

Dr. Sarah Philo:下水サーベイランスはその将来と目指す方向について議論されていますが、デジタルPCRは反応の効率を高めるうえで非常に良い位置にあると思います。リアルタイムPCRと比較して、実際に何がどれだけ存在するのかをより正確に把握できるようになります。また、デジタルPCRは希少なターゲットの検出にも非常に役立つと思います。リアルタイムPCRアッセイの検出限界にあるものが下水中に存在し、その上に阻害物質が加わると、検出が非常に難しくなります。しかし、デジタルPCRを使用すれば、これらの阻害物質の影響を取り除くことができるため、希少なターゲットを見つける可能性が高くなります。

まとめ

デジタルPCRのアプリケーションをまとめた資料を無償で配布しています。デジタルPCRの活用事例をぜひご覧ください。

【無料ダウンロード】デジタルPCRアプリケーションガイド

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