DNAなどの核酸を検出する方法として、最も一般的で手軽な方法はアガロースゲル電気泳動ではないでしょうか。過去の記事では、アガロースではなく寒天でDNAを電気泳動してみたことがありました。この記事をご紹介した読者の方から、「ゼラチンだとどうなりますか?」とコメントをいただきましたので、やってみました!
ゲルの作成
材料として市販のゼラチン粉末を用意しました。コントロールとして、普段からラボで使用しているアガロースも用意し、ゲルの濃度は1%と4%で作成しました。1×TAE bufferに、それぞれの濃度になるように秤量したゼラチンとアガロース粉末を加え、電子レンジで加熱することで溶解しました。やや冷めたら、Invitrogen™ SYBR™ Safe DNA Gel Stainを1/10,000量加える先染め法で実施しました。ゲル作成装置にゼラチンおよびアガロース溶液を流し込み、1時間ほど室温で放置して凝固させました(図1)。アガロースとゼラチンを比較してみると、アガロースの方が透明度は低くやや白濁しているように見えました(特に4%を比較すると分かりやすいかもしれません)。
1時間室温で放置した後、ゲルを使用して電気泳動しようとしたところ、1%ゼラチンは凝固していないことに気が付きました(動画)。
市販ゼラチンのパッケージを確認すると、「5 gで250 mLのゼリーができます。やわらかめに作る場合は300 mLまで増量できます」とありました。また、「よく混ぜて冷蔵庫で冷やし固める」とありました。このことから、ゼラチンは1.67%~2%で使用し、冷蔵庫で冷やさないと凝固しないことが予見されていました。しかしながら、4%のゼラチンと、1%および4%のアガロースは凝固してゲルになっていたので、実験を継続することにしました。
電気泳動しようとすると…
凝固した4%のゼラチンゲルを使用して、電気泳動の準備を進めました。まず、コームを抜いたところ、いつものようにスルッと抜けない感触がありました。そのため、ゆっくり丁寧にコームを引き上げたのですが、コームの周りに接触していたゼラチンゲルごと抜けてしまい大きなくぼみになってしまいました(図2A)。コームの周りには、たっぷりのゼラチンゲルが付着したままになっていました(図2BおよびC)。ここまできたら引き返せないと思い、手動でどうにか穴を空けてウェルを作成することで泳動しようとしたのですが、ゼラチンの張り付きが強くゲルを持ち上げることも困難な状況でした(図2D)。さらに、ゲルトレーから外そうとしたところ、ゼラチンゲルがボロボロになってしまい、このままラボ共用の電気泳動装置に沈めることが憚られたため、ここまでで実験終了とさせていただきました。
まとめ
今回の実験では、ゼラチンで電気泳動用のゲルを作成することができませんでした。もしかすると、ゲル作成装置を少し温めて剥離させやすくしたり、シリコン製のトレーやコームがあれば作成できるかもしれません。もしゼラチンゲルが作成できたと仮定して、電気泳動する場合の状況を3つの観点から推測してみましょう。
ゲルの網目構造
材料のゼラチンは、動物の皮や骨に含まれるコラーゲンというタンパク質から作られています。コラーゲンは加熱すると構造がほぐれて水中ではゾル状態ですが、冷えるとヘリックス構造をとり始め、網目構造が形成されることでゲル化します。この網目構造が分子ふるいの役割を果たすことができるならば、DNAなどの核酸をサイズごとに分離することができるかもしれません。
電荷と電場
ゼラチンは、等電点よりも低いpHではプラス電荷、等電点よりも高いpHではマイナス電荷になります(製法により等電点は異なる)。アガロースは電荷を持たないとされますが、ゼラチンゲルは電荷を持つため電場に対して応答してしまい、電気泳動には適していないと考えられます。
融点と温度
ゼラチンゲルの濃度にもよりますが、室温でも溶けてしまう場合があります。サブマリン式の電気泳動装置を利用する場合、ゲルを泳動バッファー中に沈めて電流を流します。この時、電子やイオンの運動エネルギーが水分子と相互作用し、ジュール熱が発生することで場の温度が上昇します。ゲルが厚い場合や長時間の泳動など、顕著に温度上昇してしまう条件の場合には、ゼラチンゲルが溶解してしまう可能性が考えられます。
これまで公開したブログ記事において、アガロース、寒天、ゼラチンと材料を変えてゲルを作ってみました。やはり、信頼と実績のある、安心安全なアガロースが電気泳動には最も適していると感じました。皆様もPCR産物などのDNAを電気泳動で確認される際は、ぜひ迷うことなくアガロースをお選びいただければと思います。
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