遺伝子発現解析、染色体コピー数解析、SNP解析などに用いられているDNAマイクロアレイとはどんなツールかご存じでしょうか。実験自体は受託解析に依頼していて、生データや解析結果しか見たことがないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。論文や口演のMaterials and Methodで詳細に記述することはないにしても、実験系を理解することで、得られるデータの解釈や理解につながります。例えば普段と異なるデータが得られたとき、受託解析会社との議論を具体的に進める助けになると考えます。本稿では、当社の製品を例にDNAマイクロアレイとその実験を行うための機器をご紹介します。
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DNAマイクロアレイとそのシステム
DNAマイクロアレイは、オリゴヌクレオチド、cDNAまたはBACクローンDNA(これをプローブと呼びます)をガラスなどの基板上に高密度に整列固定したツールです。DNAチップ(DNA chip)と呼ばれることもあります。
これにサンプルから抽出したRNAやDNA(から増幅やラベリングを施したもの)をハイブリダイゼーションし、その後は、洗浄・染色を行って、基盤部分をスキャンして画像データを取得します。
この画像データを解析することによって、簡便に低コストで、遺伝子の発現状況やSNPのジェノタイピングの一覧表データを作成して、網羅的な解析を行えるのが利点です。
DNAマイクロアレイが登場したのは1990年代初頭で、これまで広く使われてきましたが、現在ではNGSやリアルタイムPCRなど、他のツールでも同様の実験を行えるため、実際に目にした方は少ないかもしれません。
Applied Biosystems™ GeneChip™ マイクロアレイは、旧アフィメトリクス(Affymetrix)社、現サーモフィッシャーサイエンティフィック社の製品です。実験は、このGeneChipマイクロアレイとApplied Biosystems™ GeneChip™ Scanner 3000 7G Systemを用いて行います。GeneChip Scanner 3000 7G Systemは、GeneChip マイクロアレイ専用のシステムで、ハイブリダイゼーションを行うオーブン(Applied Biosystems™ GeneChip™ Hybridization Oven 645)、その後の洗浄およびラベリングされたサンプルを染色する機器(Applied Biosystems™ GeneChip™ Fluidics Station 450)、その後に画像を取得するスキャナー(Applied Biosystems™ GeneChip™ Scanner 3000 7G)で構成されています。
詳しくは、当社ホームページ「マイクロアレイの手引き >> マイクロアレイとは」 をご参照ください。

図1. GeneChipシステム
GeneChipマイクロアレイ

図2. GeneChip マイクロアレイ上のオリゴプローブの配置
GeneChip マイクロアレイは、DNAプローブを基板上に配置する方法が、他のDNAチップとは異なっていることが1つの特徴ですが、配置された面が内側になっているという点も他と異なっています。
GeneChip マイクロアレイの製造方法については、当社ホームページ「マイクロアレイの手引き >> マイクロアレイとは」 をご参照ください。

図3. GeneChipマイクロアレイの表面と裏面
表面の中央、正方形のガラス面にDNAプローブが合成されていますが、それは内側の面になります。中は空洞になっており、ラベリングされたサンプルは裏面の穴から注入します。
裏面中央の大きなくぼみは、Fluidics Stationのヒーターが収まる部分です。そのヒーターで洗浄・染色時の温度をコントロールします。
サンプルを注入するのは、赤色のゴムが見えている小さい方の穴です(これをセプタと呼びます)。内部は密閉されているため、注入時、片方にピペットチップを挿して空気が通るようにします。

図4. GeneChipマイクロアレイへのサンプルの注入
上の穴には、空気が通るようにピペットチップをあらかじめ挿しておき、下の穴からサンプルを注入します。

図5. GeneChipマイクロアレイの内部の様子
このような構造になっているため、サンプルをGeneChipマイクロアレイにハイブリダイゼーションするときに、プローブを高密度に整列固定させている面を傷つける心配がありません。
ハイブリダイゼーション用オーブン GeneChip Hybridization Oven 645
GeneChip Hybridization Oven 645で、マイクロアレイ上のプローブとラベリングされたサンプルを結合させます。これをハイブリダイゼーションと呼びます。

図6. ハイブリダイゼーション

図7. GeneChip Hybridization Oven 645
オーブンはGeneChipマイクロアレイ専用のものを使用します。マイクロアレイを入れるトレイとそのトレイを取り付ける回転台があります。

図8-1. オーブン内の回転台にラックを固定

図8-2. オーブン内の回転台にラックを固定
トレイを回転台に取り付けたのち、落下防止のため付属の金属クリップで引っ掛けてラックをしっかり固定します。
GeneChip Hybridization Oven 645は、同時に64枚のGeneChipマイクロアレイを入れることができます。
ハイブリダイゼーションを行っている間、GeneChipマイクロアレイは、オーブン内で回転します(通常1分間に60回転)。こうすることにより、サンプルが満遍なくプローブが固定化された基板上に行き渡ります。
自動洗浄・染色装置(GeneChip Fluidics Station 450)

図9. GeneChip Fluidics Station 450で洗浄・染色
GeneChip Fluidics Station 450では、マイクロアレイ上のプローブと非特異的な結合をしている核酸を洗浄して、ビオチンを蛍光色素で染色することで、特異的に結合している核酸を検出できるようにします。
この機器もGeneChipマイクロアレイ専用です。

図10. GeneChip Fluidics Station 450

図11. 洗浄バッファー、GeneChipマイクロアレイ, 試薬の設置場所
向かって右側のボトルに洗浄バッファーを、Wash Blockと呼ばれる箇所にGeneChipマイクロアレイを、そして、染色試薬をいれたチューブをニードルが下りてくる箇所にセットします。
ハンズオンの操作は以上で、実際の洗浄・染色の工程は機器が行います。これにより操作者による結果のばらつきが排除され、再現性の高い結果が得られます。
スキャナー(GeneChip Scanner 3000 7G)

図12. 専用のスキャナーによる蛍光発光の読み取り

図13. GeneChip Scanner 3000 7G 2つのモデル
GeneChip Scanner 3000 7Gには、オートローダー付きで最大 48枚のアレイを一度に完全自動でスキャン可能なモデルと1アレイずつスキャンするモデルとがあります。オートローダーの取り付けや取り外しは、サービスエンジニアが行いますが、スキャナー本体部分に違いはありません。
蛍光発光のスキャンは、プローブのスポットのサイズ(Feature Sizeと呼んでいますが、1種類のプローブが合成されている領域サイズ)よりも高い解像度で行っています。
読み込んだ画像情報は、接続するコンピュータに取り込まれ、処理解析されます。

図14. スキャン画像と画像認識され処理されたデータ
.DAT ファイルは、1 featureあたり~50ピクセルの画像ファイルです。この画像が自動認識、処理され .CELファイルが生成されます。1 featureあたり1つのシグナル強度を持つデータです。この工程においても操作者が介在せず、専用プログラムのアルゴリズムに従って処理されますので、信頼性の高いfeatureごとのシグナル強度が得られます。
まとめ
サーモフィッシャーサイエンティフィックのDNAマイクロアレイ、GeneChipマイクロアレイと実験を行う機器のご紹介でした。
当社ではマイクロアレイを用いた遺伝子発現やジェノタイピングに関する基礎的な内容から先端研究まで、幅広い内容をブログで随時公開中です。詳しくはこちらをご覧ください。
GeneChipマイクロアレイの製造方法については、当社ホームページ「マイクロアレイの手引き >> マイクロアレイとは」 をご参照ください。
関連製品ページ
GeneChip Hybridization Oven
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GeneChip Scanner 3000 7G System
マイクロアレイ機器
Microarray Analysis Software TAC Software
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