無機元素分析における適切な前処理方法と定量手法の選び方
無機元素の定量分析を行う際、信頼できるデータを取得することは簡単ではありません。 一般的に無機元素の分析を行う際には下図のような過程が必要になります。
信頼性の高い(誤差の少ない)分析結果を得るためには、適切な試料前処理方法を選択する高度な化学知識と実施者自身による汚染を避けるための熟練した操作技術、そしてもっとも適切な定量手法を選択することが求められます。この記事では、元素分析の誤差を最小限に抑え、安定した分析結果を得るための前処理方法、信頼性の高いデータを得るための定量手法の選択について解説します。
試料の前処理方法の種類
- 固体試料の前処理
前出の図の通り、固体試料の前処理には液体試料よりも多くの手間がかかります。成型・粉砕・秤量については言うまでもありませんが、溶解/融解/灰化についても試料によって適切な方法を選択することが必要です。以下が代表的な前処理の手法です。
- 酸溶解法
- アルカリ溶解法
- 加圧分解法
- マイクロウェーブ分解法
- 塩酸抽出法
- 有機溶媒融解法
- 乾式灰化分解法
- 低温灰化分解法
- 湿式灰化分解法
基本的にはこの中から、適切なものを選択しますが、そのあとの分析のやりやすさを考えると酸による処理(酸溶解法)を選択できれば最良です。今回は、酸溶解法を選択した前提で説明します。
- 代表的な酸の種類
酸溶解法に使用する酸にもさまざまな種類があるため、適切な酸を選択することが必要です。
こちらが代表的な酸の種類です。上図のように、それぞれ適した試料が違うため、ここでも化学知識に基づいて選択を行う必要があります。
より詳しい情報をお求めの方は、こちらから動画による解説をご視聴いただけます。
各種定量手法の特徴
前処理が終わった後は、定量手法の選択を行うことになります。各種定量手法の特徴やメリット・デメリットについて解説します。
- 絶対検量線法(検量線法)
絶対検量線法(検量線法)とは、標準試料で得られた感度と未知試料の測定感度との単純な相対比較を行う定量手法です。 メリットは、試料調製が容易であることが挙げられます。 デメリットは、物理干渉やマトリックス効果の影響が定量結果に反映されることが挙げられます。
- 標準添加法
未知試料に既知濃度の標準液を添加して測定する定量手法です。 メリットとしては、試料マトリックス濃度が高い場合にも適応できる、完全なマッチング方法であることが挙げられます。 デメリットは、試料調製が煩雑であることや添加濃度の検討が必要であることが挙げられます。
- 絶対検量線法(検量線法)と標準添加法の違い
よく比較される絶対検量線法(検量線法)と標準添加法の違いですが、高い精度を実現するためには標準添加法がおすすめです。検量線法は前述の通り試料調整が容易ではありますが、物理干渉などの影響を受けやすい点で信頼性の高いデータを得ることが難しいためです。
- 内標準法
内標準法とは測定試料すべてに内標準元素を一定量添加しその強度比で補正する定量手法です。 メリットは、物理干渉やマトリックス効果の影響を補正することができることが挙げられます。 デメリットは、適切な内標準元素を選定しなければならないことと適切な添加量を十分に考慮しなければ、正確な測定ができないことがあげられます。
- 内標準元素(内標準物質)の選び方
内標準物質を選ぶ際には、必ず実試料に含まれていない元素であることを確認してください。また、測定元素と感度やイオン化率などが一致すること、および測定元素や共存元素に対し干渉を受けたり与えたりしない物質を選ぶことも重要です。
- マトリックスマッチング法
マトリックスマッチング法とは、標準試料を未知試料のマトリックスに合わせて調製し測定する定量手法です。 メリットは、物理干渉やマトリックス効果の影響を補正できることが挙げられます。 デメリットは、未知試料のマトリックスと完全に合わせることが煩雑で困難であることや試薬からの汚染が挙げられます。
まとめ
無機元素の定量分析において、適切な前処理方法と定量手法の選択の重要性がお分かりいただけたと思います。もっと詳しい情報を知りたい方は下のリンクから動画をご視聴いただけます。
より具体的な誤差原因や各定量手法の注意点について解説していますので、興味のある方はぜひご覧ください。
研究用にのみ使用できます。診断用には使用いただけません。