ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)は、目的のタンパク質の定量を高感度で行うことができる手法の一つです。ただ抗体を利用した測定系ですので、サンプル中の夾雑物が反応を阻害し、結果に影響を及ぼす可能性があることをも忘れてはいけません。
一般的に夾雑物があると抗原抗体反応が阻害される…と言いますが、実際にはどのくらい影響があるのでしょうか?そんな疑問にお答えするため、今回は細胞・組織サンプルの調製に欠かせない溶解バッファーを利用し、溶解バッファーに含まれる界面活性剤が測定値にどのくらい影響があるのかを検証してみました。
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・ELISAを始めたばかりの研究者
材料と方法
材料:
Invitrogen™ IL-6 Mouse Uncoated ELISA Kit with Plates (88-7064-88) (アッセイレンジ:4~500 pg/mL)
Thermo Scientific™ RIPA Lysis and Extraction Buffer (89900)
Invitrogen™ Denaturing Cell Extraction Buffer (FNN0091)
方法:
キットに含まれるスタンダードを利用して、
1. RIPA bufferを終濃度5 0%、25 %、10 %で含むサンプル
2. Denaturing Cell Extraction Bufferを終濃度50 %、25 %、10 %で含むサンプル
それぞれにおいて500、62.5、15.63 pg/mLの3つの濃度のサンプルを準備しました。
キット付属のプロトコルに従って反応させ、Thermo Scientific™ Multiskan™ SkyHigh Microplate Spectrophotometerで450 nmの吸光度を測定しました。結果はThermo Scientific™ SkanIt™ソフトウエアで解析し、検量線にて濃度を算出しました。
結果
検量線より得られた各サンプルの濃度、および実際の濃度との比(%)は下記の通りでした。いずれの溶解液を利用した場合も、濃度依存的に測定結果への影響がみられました。溶解液の終濃度が10 %のサンプルにおいては比較的影響は少ないのに対し、25 %、50 %サンプルでは実際の濃度よりかなり低い測定値が示されました。また今回の実験では、高濃度および低濃度サンプルよりも中濃度サンプルの方が溶解液の影響が大きくなるという結果が得られました。
なお、アッセイ系によっては、影響の出方は変わる可能性がございます。
考察
溶解液の濃度依存的に測定結果が変化したため、溶解液中に含まれる界面活性剤がタンパク質間相互作用を変性させて、Capture抗体の抗原結合部位の構造に影響を与えた可能性が考えられます。
それぞれの溶解液の原液に含まれる界面活性剤は下記の通りです。
RIPA Lysis and Extraction Buffer:1 %NP40、0.1 % SDS
Denaturing Cell Extraction Buffer:1 %Triton X-100、0.1 % SDS
また、細胞・組織サンプルを調製する際に界面活性剤の使用は避けて通ることはできません。この影響を抑えるためにはサンプルを希釈するしかありませんが、サンプルを希釈すると、検出したいタンパク質の濃度も下がります。また界面活性剤の影響をゼロにすることは難しく、どの程度の希釈であれば許容できるかを自身で検討する必要があります。
今回はキット付属のスタンダードタンパク質(リコンビナントタンパク質)に溶解バッファーを添加して影響を確認したので、実際に組織や細胞サンプルを利用した際とは影響の大きさが異なる可能性があります。また使用する抗体によっても結果は変わる可能性が有るので、やはり事前の条件検討は必要です。
この条件検討を行う際に有用な方法は”Spike & Recovery test”です。濃度既知のアナライトをサンプルに添加してELISAを行い、期待どおりに濃度が上昇するかを確認する手法です。
Spike & Recoveryテストの詳細な説明は下記のブログをご参照ください。
ELISAにおけるサンプル成分の影響を評価するSpike & Recoveryテストとは?
またサンプル間で希釈率が違うと、界面活性剤の影響の程度が変わる可能性があります。そのため、同一アッセイにおいては全てのサンプルで同じ希釈率で実施することをお勧めします。
まとめ
・界面活性剤入りの溶解液は、残存濃度によっては結果に影響を及ぼす可能性がある
・予備実験としてサンプルの希釈率を検討することは重要
・同一アッセイにおいて、サンプルの希釈率はそろえた方が良いだろう
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