近赤外分光法は化学、製薬、食品分野の品質管理において、数多く活用されており、その多くは製品中の含有成分の迅速な定量を目的としています。
今回はワイン中のアルコール分の定量を実施した例を紹介いたします。ワインのアルコール分は、ぶどうに含まれる糖分が、酵母の働きにより発酵する工程で生まれます。市販ワインには、アルコールが10~14%程度含まれており、種類によってその濃度が若干異なります。今回は測定波数領域を近赤外領域に拡張してアルコール度数の定量を試みました。近赤外分光法は、水分やアルコール分など、OH基を含む物質に対して非常に高感度であり、しかも非破壊で分析することが可能です。試薬を使わず、特別な前処理も不要で、ガラス容器を通してそのまま分析できるなどの長所を併せ持っています。
測定
FT-IR/NIRを用いた定量分析では、まず標準サンプルを用いて検量線を作成する必要があります。アルコール度数は「原容量100分中に含有するエタノール容量」と規定されています。ワインのアルコール度数をカバーする範囲で、エタノール濃度が5、10、15、20%の標準溶液を準備し、光路長固定の石英セルに入れて、検量線作成のためのレファレンススペクトルを測定しました。
検量線の作成
図1に各濃度の近赤外スペクトル(同一スケール、重ね書き)を示します。7,300~6,200 cm-1にかけて、水に由来するOH基の倍音振動によるピークが観察され、6,000~5,750 cm⁻¹の領域にはエタノール濃度の違いに由来するピークの変化が観察されます。
図1.エタノール濃度5、10、15、20%の標準溶液のスペクトル(同一スケール、重ね書き)
検量線の作成には、ケモメトリックスソフトウエア Thermo Scientific™ TQ Analyst™ を利用しました。二次微分スペクトルを用いたPLS法で、図2 に示すように、相関係数 0.99971の検量線が得られました。
図2. 標準溶液によるエタノール濃度の検量線
ワインのエタノール濃度の定量
赤・白各3種類、計6種類のワインをサンプルとし、近赤外スペクトルの測定を行いました。得られたスペクトルを用い、図2の検量線を用いてエタノール濃度の計測を行いました。再現性の確認のためワインを3回ずつ入れ替えて測定し、平均値を求めました。
表1に、Sample 1~6のエタノール濃度の定量結果と、ラベルに記載されたアルコール度数の比較を示します。赤・白ワインとも、測定スペクトルの再現性が良好で、かつラベルに記載されたアルコール度数と比較的よい一致を示すことがわかります。
表1. ワインのエタノール濃度の定量値とラベル記載のアルコール度数一覧
まとめ
FT-IRを用いてワインのアルコール度数の定量を行ったところ、良好な結果が得られました。FT-IR/NIRは、検量線を用い、1検体あたり1分以内で迅速に定量結果が得られるという特長を持っています。加えて、各成分に対応するピークがおのおの異なる波数領域に出現することを利用し、一度に多成分の定量分析を行うことも可能です。このような長所に注目し、食品工場などでの迅速な品質管理を目的とした専用システム(Thermo Scientific Nicolet Antaris™ 近赤外アナライザー:以下写真)が、原材料の受入検査から出荷前検査などに活躍しています。
関連情報
1 アプリケーションノートワインの分析(3)FT-NIR を用いたアルコール度数の定量
2 近赤外(FT-NIR)分光法を用いたビールの成分分析→ 近赤外(NIR)分光法
FT-IR製品についてのお問い合わせをお待ちしております。
デモ使用やトレーニングご希望の方は下記よりお問い合わせください。
研究用にのみ使用できます。診断目的およびその手続き上での使用はできません。