ポリマー、特に接着剤やシーラントは、産業分野などで広く使われる重要な材料の一つで、用途に合わせた硬化条件や長期材料特性などに特徴を保持させる必要があります。一般に、重合反応により形成される化学結合や構造によって接着剤の硬化と機能の特性が異なります。また、重合反応における「開始」、「生長」、「停止」、「分岐」をコントロールすることで、製品の目的に応じた接着剤を合成することが可能となるため、これらの反応を追跡、評価することが重要です。
FT-IR(赤外分光分析装置)は連続した波長の赤外光を用いる分光分析手法で、分子の結合状態を検出することができ、有機化学反応における化学結合や構造の変化を同時に複数確認することが可能です。特定の反応場(加熱条件下、紫外線照射下など)での固体・液体・気体の測定も行うことも容易なため、接着剤などのポリマーの反応の評価、研究にFT-IRが広く活用されています。このブログではポリウレタンの反応メカニズムについてFT-IRで評価、分析した例を紹介します。
ポリウレタンの反応とFT-IRによる実測定
ポリウレタン合成反応における開始反応は、(1)式に示すようなジイソシアネート(またはポリイソシアネート)とアルコールやジオールのようなコモノマーとの反応です。
R-O-H + O=C=N-R’ → R-O-C(=O)-NH-R’ (1)
この反応は室温においても早く進行するため、液体ウレタンの輸送や保管時にはこの反応(1)が起こらないようにする必要があり、「ブロッカー」とイソシアネートを反応させることで対処できます。(2)式のBHがブロッカーで、この反応は温度を上げることで進行し、ブロッカーの脱離とイソシアネートの生成が起こり、結果として重合反応が開始します。
R”-NHC(=O)-B → R”-N=C=O + BH (2)
ウレタン合成の評価にパーフルオロポリエーテルとブロッカーとしてケトオキシムを反応させたイソホロンジイソシアネートを使用しています。加熱式の液体セルを用いて、パーフルオロポリエーテルの酢酸ブチル溶液とブロッカーと反応させたイソホロンジイソシアネートの混合液を150℃で反応の測定を行いました。
Thermo Scientific™ OMNIC™ シリーズソフトウエアを用いて取得した測定結果を図1に示します。本ソフトウエアにより連続的にFT-IR測定を行い、化学反応による構造の変化を視覚的に捉えることが可能となります。

図1 OMNIC Series ソフトウエア測定結果画面
ポリウレタン反応の解析
一連の測定で得られたスペクトルの一部を図2に示します。3420 cm⁻¹のブロッカーに由来するNH基のピークが最初に小さくなり、その後に2260 cm⁻¹のイソシアネート基(-N=C=O)に由来するピークが大きくなっていることが分かります。このピーク変化は図3に示したNH基とイソシアネート基のタイムプロファイルからも確認できます。最初にイソシアネートが生成していないことから、反応(1)と(2)が連続的に(脱離反応(2)の後、重合反応(1)が続く)進行するのではなく、別の反応(ブロックイソシアネートとアルコールが反応した後にブロッカーが脱離)が起こり、ウレタン結合の解離によってイソシアネートが生成していると思われます。

図2 連続測定で得られたスペクトルの一部

図3 NH基とイソシアネート基のピーク高さのタイムプロファイル
まとめ
今回紹介した重合反応のような化学反応の評価において、FT-IR(赤外分光分析装置)のリアルタイム測定は反応の解析に非常に有効です。Thermo Scientific™ Nicolet™ iS™ 50 FT-IRとOMNIC Seriesソフトウエアを組み合わせて測定を行うことで、さまざまな実験状況や測定時の各種パラメーターを広く設定することが可能となります。ポリウレタンの重合反応のような比較的進行の遅い反応だけでなく、UV硬化反応のような早い重合反応の評価にも使用可能です。
今回ご紹介したデータは、Solvay Solexis(http://www.solvaysolexis.com/)からのデータ提供を受け、下記論文に基づいて構成されています。
Radice, S.; Turri, S.; Scicchitano M. Applied Spectroscopy 58(5), 2004, pp.535-542.
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