バッテリー(蓄電池/二次電池)技術はリチウムにかかっている?

5/10,2021 Dr. Simon Nelmsより

 

リチウムイオン電池とは、陽極と陰極の間をリチウムイオンが動くことで電力が生まれる仕組みを生かした電池のことです。繰り返し充電して使えるため、スマートフォンやパソコンなど、私たちの身近な電化製品に必須のものとなっています。また、世界中の国々が化石燃料からの脱却を加速する中で、リチウムイオンバッテリーはより環境にやさしい代替エネルギーの促進に重要な技術として、その地位を急速に築いています。しかし、リチウムはこの技術の一部に過ぎません。このブログでは、バッテリー(蓄電池二次電池)技術におけるリチウムと他の元素の役割を見直し、そして、それらの元素を定量する方法について論議しながら、この分野の発展に支えるための潜在的なオプションを評価します。

 

リチウムイオンバッテリー(電池)課題と今後の展望

リチウムイオンバッテリーの陰極には、リチウムを含む混合金属酸化物をベースとするのが典型的な構造で、ニッケルやコバルト、マンガン酸化物がよく用いられます。適切な性能を維持し、充電と放電に伴う陰極材料のサイクル劣化を最大限に抑えるために、これらの材料は高純度である必要があります。特に、バッテリーの性能を低下させ、材料の劣化を加速させる金属不純物(鉄とバナジウムなど)および硫黄を含んではいけません。リチウムイオンバッテリーは、そのサイズが小さいこと、ならびに比較的な長期間に安定に充電・放電できる安定性を持ちながら高出力かつ大容量であることから、今や電気自動車(EV)やポータブルデバイスに搭載される社会に欠かせない存在となっています。しかし、リチウムイオンバッテリー(電池)には異常過熱による発火や爆発などの安全面の課題もまだ残っています。具体的には、短絡(ショート)、急速放電、過充電あるいは構造の破壊などの要因によって引き起こされるため、近年の多くの研究開発はバッテリーの安全性に集中しています。しかし、リチウムバッテリー/電池には安全性が唯一の課題ではありません。リチウムバッテリーの価格が大幅に下落した(推定によれば、2010年から2020年の間にほぼ90%減少)一方、リチウム原料(主に炭酸リチウムと水酸化リチウム)の価格が、今年1月以降着実に上昇しています。リチウムは地殻中の約0.002 ~ 0.006 wt%程度を占める有限な資源で、需要が増えた結果、供給が減少し、コストが上がることが予測されます。ここでの「コスト」は金銭的なものだけではありません。リチウムへの高い依存度が続く限り、鉱業活動が著しく増加し、リチウムが豊富な鉱床がある地域の環境に大きな影響を与えます。以上のことから、使い済みバッテリーのリサイクルと再加工もリチウムバッテリーのサイクルにおいて不可欠であると言えます。

 

リチウムイオンバッテリー・電池に代わる電池は存在するか?

1970年代から1980年代初頭のリチウムイオンバッテリー/電池研究の初期段階では、ナトリウムイオンバッテリー(ナトリウムイオン電池)2も代替対象として研究されました。ナトリウムは地殻中、平均2.27 wt%の存在度で7番目に豊富な元素であり、価格も安く、どこからも回収できるという点で、リチウムより広範囲に利用できるという大きなベネフィットがあります。しかし、ナトリウムはイオン半径が大きいために、リチウムイオンバッテリー(蓄電池/二次電池)で効率的に使われる黒鉛陽極を用いることができず、ナトリウムイオンバッテリー(ナトリウムイオン電池)の電力密度および充電・放電の繰り返しの安定性がよくないことがすぐに明らかにされました。その結果、リチウムの代替としてのナトリウムイオン電池に関する研究は2010年代初頭まで長年にわたって停滞しました。その後、バッテリーにおける需要の増加、およびハードカーボン3がナトリウムイオンに対し優れた負極材料となりうることが発見されてから、再びこの分野への関心が寄せられることとなりました。ナトリウムイオン電池の開発までにはまだ長い道がありますが、喜ばしい前進が次々と発表されています。2020年6月には、ワシントン州立大学(WSU)とパシフィックノースウェスト国立研究所(PNNL)の研究者は、実用的なナトリウムイオン電池4を開発したと発表しました。そして、スタンフォード大学は新しいナトリウムイオンベースのバッテリー材料5の研究を先導しています。

 

バッテリー/電池技術にかかわるリチウムやほかの金属の測定

カソード金属酸化物およびカソード材料の微量元素不純物の正確な測定と定量が、バッテリー(蓄電池/二次電池)生産、研究と開発の推進とスケールアップには非常に肝心なことであることは明らかです。誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-OES)誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)を含むテクニックは研究に利用できます。サーモフィッシャーサイエンティフィックのドイツのブレーメンのアプリケーションチームはThermo Scientific™ iCAP™ PRO XP ICP-OESを使用したリチウムバッテリーの微量元素の分析に関するアプリケーションノートを作成しました。バッテリー技術の進歩を支えるテクノロジーの仕組みの詳細は、こちらのバッテリーリソースページでご確認ください。

下記のリンクで、リチウム電池の分析に関するアプリケーションノート「iCAP PRO XP ICP-OESによるリチウムイオン電池中の元素の高感度測定をダウンロードできます。是非ご一読ください。 

ダウンロードはこちらから

 

参考文献

1 リチウムバッテリーの価格が急落

– https://www.statista.com/chart/23807/lithium-ion-battery-prices/

2 ナトリウムイオンバッテリー – https://en.wikipedia.org/wiki/Sodium-ion_battery

3 ハードカーボン – https://en.wikipedia.org/wiki/Hard_carbon

4研究者は実行可能なナトリウムバッテリーを開発 (2020-06-01) – https://news.wsu.edu/2020/06/01/researchers-develop-viable-sodium-battery/

5 ナトリウムイオンバッテリーはそれぐらい塩の価値に値するか? – https://www.power-technology.com/features/sodium-ion-batteries-worth-salt/

 

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