メタボロミクス/リピドミクスとは
メタボロミクス(Metabolomics)はメタボローム解析とも言い、メタボライトと呼ばれる低分子化合物(生命活動によって生産される代謝物)を網羅的にプロファイリングすることで、生命現象を理解しようとする試みのことで、ゲノム配列を解析するゲノミクスやタンパク質を解析するプロテオミクスなどと共に、生命現象を読み解くと期待されている技術です。
また、メタボロミクスの中でも測定対象を脂質成分(リピドーム)に限定した網羅的プロファイリングをリピドミクス(Lipidomics)または、リピドミクス解析といいます。脂質(リピドーム)は生体制御において非常に重要な役目を果たしているため、脂質分析は生命活動を解き明かす上で期待の大きい分野と考えられています。
では実際にどのように分析を行えばいいのか、見ていきましょう。
リピドミクス解析
まずは、分析手法が比較的確率されているリピドミクス(リピドミクス解析)からお話します。
脂質サンプルの中には化学特性の似通った、質量が近接する分子種が数多く存在するため、リピドミクス解析において高い質量分解能でプロファイリングが可能なThermo Scientific™ Orbitrap™ 質量分析計を使用することがおすすめです。
特定の脂質クラスに注目したい時には、対象のリピドームがどのような脂質クラスに注目するのか、スループットを重視するのか、あるいは異性体分離を重視するかといったリピドミクスの分析目的に応じて、適切なメソッドを選択する必要があります。
また、前述の通り化学特性が似通っている、質量が近しい分子種が多いことから、リピドミクスにおいてもっとも時間がかかるステップは脂質同定であるといわれています。
このステップについては、Thermo Scientific™ Lipid Search™ ソフトウエアを使用することで、自動化を行うことも可能です。
200万以上の脂質分子種が登録された仮想データベースを搭載しており、広範囲の脂質分子種の同定が可能です。またOrbitrap質量分析計に最適化されたアルゴリズムを持っているので、ピーク検出から、脂質同定、定量、グループ間比較を行えます。
メタボロミクス解析
ここまでリピドミクス解析について説明を行ってきましたが、メタボロミクス解析についてはリピドミクス分析とは異なった分析手法が必要となります。
メタボロミクスの対象となる低分子は、非常に幅広い化学特性を持つ化合物の集まりです。サンプルには多様な化学特性の化合物が含まれるので、単一の相互作用に基づくカラムを用いてクロマト分離を行ってもすべての成分を保持することができません。
そこで当社では、大部分の化合物をカバーできるように逆相カラムと親水性相互作用(HILIC:ヒリック)カラムを用いた2種類のメソッドをご提案しています。加えて、従来のLCメソッドでは達成できない、高極性の化合物に特化したイオンクロマトグラフィーによる分析も対応が可能です。
- 逆相カラム(C18カラム)を使用したメソッド
一般的なC18カラムを使用したLCメソッドは再現性に優れており、中極性分子や極性の低い成分や脂質は強く保持するほか、極性化合物も保持時間5分未満ではありますが保持されることが分かっています。
十分量含まれる極性低分子であればこのメソッドで検出可能ですが、極性低分子がボイドボリュームのすぐ後にまとまって共溶出されてしまうために、微量極性低分子はアバンダントな成分に埋もれて検出困難になってしまいます。
- 親水性相互作用(HILIC)カラムを使用したメソッド
極性低分子の保持・分離にフォーカスしたカラムケミストリーとして、親水性相互作用(HILIC)カラムがあります。HILICのメソッドは幅広い両極性の極性化合物をカバーできるため、極性切り替え測定との相性が良く、効率の良い測定が可能です。
- イオンクロマトグラフィー
イオンクロマトグラフィーとは極性化合物分析用の液体クロマトグラフィーであり、移動相に有機溶媒を用いず超純水を用い、イオン性の相互作用でカラムに保持された成分を移動相の塩濃度を高めることで溶出するという手法です。
がん幹細胞の抽出液をサンプルとして、逆相、HILIC、ICで分析したところ、逆相、HILICでは3ピーク程度の検出に対し、左の青で示したICでは11種の異性体が検出されました。このように、従来の分析法では達成できなかった詳細な異性体分析が可能となっています。
本メソッドを使用すると、アニオンの異性体を高分離可能であるため解糖系やTCA回路といった一次代謝経路の化合物を広くカバーできます。本手法で良好に検出できる化合物は図中に赤で示しています。
まとめ
以上の通り、メタボロミクス解析とリピドミクス解析においては、目的に応じて最適なクロマトグラフィーを選択することが重要であり、特に広いカバレッジの分析には、複数のクロマトグラフィーを採用すると効果的です。
下図に食品の抽出液をサンプルとして、さまざまなクロマトグラフィーで検出された化合物の数とその代謝経路を示しています。先述したアニオンの異性体分離に優れているIC-MSを用いると、解糖系やTCA回路といった特定の経路でカバレッジ高く化合物を検出できることを緑で示しています。
なお、今回ご紹介したメソッドだけで、すべての化合物をカバーするのは困難です。たとえば、極性を持たない揮発性の高い分子は、黒で示すGCMSによる分離が適しています。
また前半でご説明した通り、脂質に関しては、脂質のための分析メソッドを適用する必要があります。
メタボロミクス(Metabolomics)とリピドミクス(Lipidomics)に関する情報をお探しの方に、少しでもお役立ていただけると幸いです。
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