近年、晩婚化などに伴い、自然妊娠が難しいカップルが不妊治療を行う例が年々増加している一方で、母体の年齢と流産率は相関し、胚の着床率は逆相関することが報告されています。そこで、体外受精によって得られた胚の一部を採取して、あらかじめ胚の染色体の異常などを解析し、着床率の改善を目指す研究が注目されています。
今回は、Ion Torrent™ 次世代シーケンサ(NGS)を用いた胚の異数性解析ついて、ご紹介します。
胚の染色体解析
一般的にヒトは2倍体であり、22対の常染色体と、女性ならばX染色体が2本、男性ならばX染色体とY染色体が1本ずつの計46本の染色体を持つことが知られています。配偶子形成の際に減数分裂によって1倍体の卵子または精子を形成し、これらの配偶子が受精することによって、再び2倍体となります。しかし、これらの過程で染色体の一部または全体に異常(異数性や構造異常)が生じることがあります。染色体の異常を有する胚の多くは、発生初期において正常な発生が止まってしまいます。しかし、一部の胚は染色体の異数性を伴いながら発生し、ダウン症(21番染色体トリソミー)、ターナー症候群(X染色体モノソミー)、エドワーズ症候群(18番染色体トリソミー)、クラインフェルター症候群(XXY)、Triple-X症候群(XXX)といった核型を有する疾患を発症します*1。
染色体異常が発生する詳細なメカニズムは未だ明らかにされていません。しかし、いくつかの研究において、その原因には遺伝的な染色体の特徴や親となる個体の年齢が大きく影響していることが示唆されています*2。
これまでに、胚の着床不全や流産の要因を明らかにするために、Fluorescent in situ hybridization(FISH)やG-band解析、array comparative genome hybridization(aCGH)などといった手法を用いた染色体の構造異常や異数性を解析する研究が進められてきました。しかしながら、解析可能なゲノム領域やサンプルの初期量などといったハードルも高く、解析にかかる費用や時間も問題となっていました。
次世代シーケンサを用いた1細胞からの異数性解析
近年、注目されている研究が次世代シーケンサによる胚の異数性解析です。次世代シーケンサを用いれば、迅速かつ正確に異数性を有する染色体を検出することができます。
オックスフォード大学のDagan Wells氏らは、Ion Torrent™ システムを使用して61検体の単一細胞サンプルの異数性を解析しました。6検体は細胞株由来、38検体は32の胚盤胞由来の細胞を含むサンプルでした。これらの胚盤胞由来のサンプルを1度のシーケンスで解析したところ、検体の染色体異常を15時間未満で検出することができました。また、彼らの解析は非常に感度や特異性が高く、aCGHの結果との比較では、一致率は99.7%でした。さらに彼らの研究により、ミトコンドリアDNA(mtDNA)の量が増加した胚は染色体異常のリスクが高い、という胚の異数性とmtDNAとの関連が明らかとなりました。
また、当社において正常な核型を持つ10サンプルと既知の異数性を持つ10サンプルをIon Torrent システムでシーケンスし、Ion Reporter™ ソフトウェアで解析したところ、x0.01のカバレッジデプスのデータにおいて、3番染色体の18Mbの欠失を含む、28すべての異数性を検出しました。この結果はaCGHの結果とも100%一致しました。
このように少数の細胞由来のゲノムDNAを用いたIon Torrent システムとIon Reporter™による解析は、胚の異数性や染色体以外の事象においても迅速かつ正確に検出するにあたって、十分な感度を有することが実証されています。
Ion Torrent システムのスピード
通常不妊治療において、1サイクルで6~10個の胚が得られます。胚を用いた着床前の遺伝子解析では、これらの胚から取り出した細胞を使用して、妊娠の成功につながる可能性のある胚を選択します。したがって、胚を母体に戻すタイミングは非常に重要であり、24時間以内に23対の染色体の包括的な解析結果を得ることが望まれます。Ion Torrent システムを用いた遺伝子解析は約10~13時間以内に複数のサンプルの23対の染色体の包括的な解析結果が1回のシーケンスで得られます。

まとめ
・不妊治療の過程において、胚の異数性解析が注目されています。
・Ion Torrent システムなら少数の細胞由来のゲノムDNAを用いて胚の異数性を迅速に解析可能です。
・胚の異数性解析にご興味がある方はIon Torrent™ ReproSeq™ PGS Kitをご検討ください。
次世代シーケンサ(NGS)入門
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参考文献
*1, Ganmore I, Smooha G, Izraeli S. (2009) Constitutional aneuploidy and cancer predisposition. Hum Mol Genet. 18(R1):R84-93.
*2, Rubio C, Rodrigo L, Garcia-Pascual C, Peinado V, Campos-Galindo I, Garcia-Herrero S, Simón C. (2019) Clinical application of embryo aneuploidy testing by next-generation sequencing. Biol Reprod.101(6):1083-1090.
For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.
研究用にのみ使用できます。診断用には使用いただけません。



