はじめに
特定のタンパク質が定量できるELISAですが、操作が煩雑で時間もかかります。一般的にELISAは、精度が求められる実験系のため、実験の各ステップにおいて的確な操作が肝要となります。
精度を担保するために、操作の途中で洗浄液をしっかり除去しましょう、とよく言われます。キムタオルにプレートをパンパンとたたきつけられている方も多いのではないでしょうか。しかし、プレートのウェルが乾いてしまわないか不安になったことはありませんか?乾いたら失敗なのか、どのくらいの影響が出るのか。
弊社で開催しているELISAハンズオントレーニングご参加者のそんな率直な疑問から、ELISAのプレートが乾いてしまうとどの程度の影響が出るのか、やってみました。
皆さまも、どういう結果になるのか予想してみてください。
①ほとんど影響ない
②吸光度が上がる
③吸光度が下がる
材料と方法
材料:
・ p38 MAPK (Total) Human ELISA Kit (製品番号KHO0061)
方法:
キットに含まれるスタンダードのタンパク質を溶解し、1000 pg/mL (=High)、62.5 pg/mL (=Low)の2点について、キット付属のプロトコルに従って反応させ、吸光度をThermo Scientific™ Multiskan™ GO 吸光マイクロプレートリーダーで測定しました(n=4)。
本キットは、一般的なサンドウィッチELISAの構成であり、各ステップは下記のとおりです。
1.捕捉抗体固相化済みのプレートに抗原サンプルを反応
2.洗浄(1回目)
3.検出抗体を反応
4.洗浄(2回目)
5.HRP標識二次抗体を反応
6.洗浄(3回目)
7.発色・停止反応後にプレートリーダーで吸光度を測定
合計3回の洗浄ステップにおいて、プレートのウェル内に残った洗浄液をしっかり除いた後、ドライヤーの冷風を90秒間あてることで完全にプレートを乾燥させました。
対照として通常通り乾燥させないように注意して測定したプレートと比較しました。
条件1: 乾燥させずに実施
条件2: サンプル反応後(洗浄1回目)に乾燥
条件3: 検出抗体反応後(洗浄2回目)に乾燥
条件4: HRP標識二次抗体反応後(洗浄3回目)に乾燥
結果
Highサンプル(1,000 pg/mL)、Lowサンプル(62.5 pg/mL)を測定しましたが、吸光度は、両サンプルともおよそ10 % 低下しました。
抗体や抗原、HRPなどの酵素はいずれも乾燥すると、構造変化によりおそらく結合力や活性に影響して吸光度は大きく低下するだろうと予想していましたが、思っていたほど差はでませんでした。
ステップごとに見ていくと、ほんのわずかですが、乾燥させるのが前の工程になるほど吸光度が低下しているようでした。
もちろん精度の高いELISA定量では、10 % の吸光度の低下は大きな問題となりえます。
しかし乾燥させてしまったからといって、まったく見当違いの値になるわけではないということが分かりました。
まとめ
皆さまの予想はいかがでしたでしょうか。今回、普通は絶対に行わない「プレートを完全に乾かす」ことをしてみました。
実際にやってみなければ分からないことはたくさんあります。私自身この結果を見てELISAに対する理解がより深まった気がします。
弊社ではELISAだけなく、 例えばリアルタイムPCRや細胞培養、ウェスタンブロッティングなど、実際に実験(実習しながら学べるハンズオントレーニングを開催しています。
その中で今回のような実験結果もご紹介していますので、これから新しい実験を始められる方、より理解を深めたい方はぜひご参加ください!
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