バイオ実験で欠かすことのできないマイクロピペットや1.5 mL反応チューブなどを用いた実験操作手技ですが、見落としがちなコンタミネーションを招くステップがいくつか潜んでいます。本ブログでは、特に初学者や久しぶりにマイクロピペットを用いた実験をされる方が遭遇しやすいリスクとして下記のポイントをご紹介いたします。また、指導的立場にいる方が入門者にレクチャーする際の参考にするのみならず、より多くの方が分子生物学的実験におけるコンタミネーションリスクを回避して、再現性や効率のよい実験の実施につながればと願っております。
チップが先か?フタが先か?
最初に分子生物学実験で頻繁に実施されるマイクロピペットを用いた1.5 mL反応チューブ等への分注操作の流れをイメージしてみてください。普段、皆さまは試薬分注のタイミングでマイクロピペットにチップを装着する際にどの順番でチップを装着していますか?
A:先にチップを装着してから、チューブのフタを開ける順番
マイクロピペットにチップを装着し、反応チューブのフタを開けて、試薬の分取や分注を行う順番での方法。この動画では「あえて」コンタミネーションが生じやすい操作を強調しています。
B:先に反応チューブのフタを開けて、チップを装着する
反応チューブのフタを開けてから、マイクロピペットにチップを装着して、試薬の分取や分注を行う順番での方法。この動画でも「あえて」コンタミネーションが生じやすい操作を強調しています。
コンタミネーションリスクを回避するコツ
慣れている人にとってはあまり気にしない手技の流れかもしれませんが、Aの方法もBの方法もどちらも気が付きにくいリスク(落とし穴)が潜んでいるステップがあります。特にAの方法で「先にチップを装着」する方法は学生実習などで初学者が陥りやすいリスクが隠れています。それはマイクロピペットを片手に持ったまま反応チューブのフタを開ける操作において、視線や意識が反応チューブに向かっており、片手で握っているマイクロピペットに装着されているチップの先端が実験デスクや他の場所に付着してしまい、チップが汚染される可能性があります。特に連続分注などで複数のチューブに続けて試薬を添加する際などには、チップ先端がさまざまな場所に付着することで、汚染によるコンタミネーションのリスクがさらに高くなります。

(写真右下部)
チップの先端が実験ベンチの表面に触れることでコンタミネーションのリスクが高まります。
また、Bの方法における「先にチューブのフタを開けておく」方法では既に反応チューブのフタが開いている状況や、チューブスタンドに立てている状態での試薬分注操作となるので、マイクロピペットを握った状態でのチューブのフタを開ける操作が必要なく、落ち着いた状況で試薬の分取や分注操作ができるメリットがあります。しかしながら、先に反応チューブのフタを開けておくため、反応チューブ内にゴミなどが落下して汚染させるリスクがあり、反応チューブ上部での分注やマイクロピペット操作等を行うと試薬やサンプルが混入してコンタミネーションを招く可能性が高まります。そのため可能な限り実験ベンチ作業空間の奥側にチューブラックを設置するなど、フタが開いた反応チューブの上部での操作を回避することなどが必要となります。

(写真左上部)
チューブのフタが開いている状態の上部での作業は飛沫の拡散などによるコンタミネーションリスクが高まります。
さまざまなリスクを考慮した作業の実施がコンタミネーションのリスクを下げることができます
実験操作に慣れてくると、どうしても実験手技に関して自己流で「やりやすい」方法が馴染んできます。マイクロピペットで試薬を取り扱う際に「先にチップを装着する」と「先に反応チューブのフタを開けておく」の方法でどちらが正解という訳ではないのですが、それぞれの手法に潜むリスク、すなわち「チップの先端がどこかに触れる汚染リスク」、もしくは「フタの開いた反応チューブの上部からの落下混入による汚染リスク」をどのように認識、理解してリスク回避するのかが重要となります。
まとめ
このブログ記事を読まれた方は同僚や他の方のマイクロピペットを用いた実験手技に関して、このような視点から見てみると新しい発見があるかもしれません。もちろん、あなたのピペット操作も誰かに見られているのかもしれません。
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