今回はin vitro タンパク質相互作用を解析する方法についてまとめてみました。
▼もくじ
はじめに
タンパク質の相互作用には、アフィニティーが強く安定な場合もあれば、アフィニティーが弱く、短い時間だけ相互作用する場合もあります。細胞内でサブユニット同士の相互作用が安定な場合、サブユニットを複合体として精製することが可能です。ヘモグロビンやRNAポリメラーゼは複数のサブユニットが安定な複合体を形成している例です。このような相互作用の解析には、共免疫沈降法、プルダウンアッセイ法、ファーウェスタンブロッティング法が利用できます。生体内で形成される複合体のうち、シグナル伝達、修飾(転移)、輸送、発現調節などの細胞内プロセスに関わるタンパク質の多くは短い時間だけ相互作用して一時的に複合体を形成すると考えられています。このような一時的な相互作用の解析にはクロスリンカーを用いた架橋反応法やラベル転移反応法が利用されます。
各種In vitro タンパク質相互作用解析法
タンパク質相互作用解析法には多くの手法が開発されており、より生体内に近い環境でさまざまな相互作用の網羅的な検出を行うことができるin vivo法と、再現性が比較的高くより直接的な相互作用解析を行うことができるin vitro法に大別できます。両方の手法を互いに補完的に利用することもあります。ここでは説明を省きますが、in vivo法の代表的な手法にはツーハイブリッドシステムや細胞内架橋反応法(例 Photoreactive Amino Acids)があります。in vitro法には、一般的な研究室で手軽に解析できる手法と特別な装置を利用する手法があります。以下、それぞれの原理について簡単に説明します。
共免疫沈降(Co-IP: Co-immunoprecipitation)法
免疫沈降抗体と反応する抗原をbaitタンパク質として利用し、baitタンパク質*1と共沈降する、すなわちbaitタンパク質と相互作用するpreyタンパク質*1を精製・解析する方法です。baitタンパク質に直接アーティファクチャルな処理を行わないため比較的ネイティブな相互作用複合体の解析が可能です。
*1 baitタンパク質、preyタンパク質:相互作用解析を行う場合、通常研究対象とする既知のタンパク質に対して相互作用するタンパク質を解析します。このとき既知のタンパク質を釣りの餌(bait)に例えてbaitタンパク質と呼び、baitタンパク質によって釣られる側をpreyタンパク質と呼びます。
プルダウンアッセイ法
アフィニティークロマトグラフィーを利用する方法で、タグを融合したbaitタンパク質と相互作用するpreyタンパク質を、タグと結合するアフィニティー担体を利用して精製・解析する方法、あるいはカップリング用担体に固定化したbaitタンパク質と相互作用するpreyタンパク質を精製・解析する方法です。タグ融合タンパク質または精製baitタンパク質があれば抗体が無くても相互作用解析が可能です。
ファーウェスタンブロッティング法
ウェスタンブロッティングを応用した方法で、メンブレン上のpreyタンパク質を、preyタンパク質と相互作用する標識タンパク質(baitタンパク質)を用いて検出する方法、あるいはメンブレン上のpreyタンパク質と相互作用する非標識タンパク質(baitタンパク質)を介した標識抗体との反応を利用して検出する方法です(第7回参照)。
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架橋反応法(クロスリンク法)
ホモバイファンクショナルクロスリンカー*2またはヘテロバイファンクショナルクロスリンカー*3を利用し、prey/baitタンパク質複合体を共有結合的に架橋することで安定化する方法で、アフィニティーの弱い相互作用の解析に有用な手法です。架橋複合体は共免疫沈降(Crosslinked-CoIP)法、baitタンパク質にタグが融合されている場合にはアフィニティーにより単離しウェスタンブロッティングにより検出できます。この架橋反応法には細胞や細胞ライセートにクロスリンカーを添加して架橋する1-Step法(主にホモバイファンクショナルクロスリンカーの場合)と、精製baitタンパク質にクロスリンカーを修飾した後、preyタンパク質を含むタンパク質溶液と混合し、baitタンパク質の近傍に存在するタンパク質(相互作用するpreyタンパク質)を架橋する2-Step法(主にヘテロバイファンクショナルクロスリンカーの場合)があります。架橋反応には、アミノ基(-NH2基)やスルフヒドリル基(-SH基)に対するクロスリンカーのほか、紫外光の照射により活性化するフォトクロスリンカーも相互作用の検出に利用されます。細胞表面タンパク質の架橋には水溶性の細胞膜非透過性クロスリンカーを、細胞内タンパク質の架橋には疎水性の細胞膜透過性クロスリンカーを利用します。また、還元剤やヒドロキシルアミンなどで切断可能なクロスリンカーを利用することで、クロスリンカーによるprey/baitタンパク質間の共有結合を切断して別々に解析することも可能です。質量分析を用いた相互作用部位の同定にも利用できます。
*2 ホモバイファンクショナルクロスリンカー: 両端に同じ官能基をもつ化学架橋剤
*3 ヘテロバイファンクショナルクロスリンカー: 両端に異なる官能基をもつ化学架橋剤
ラベル転移反応法
検出(またはトラップ)可能なラベルをもつヘテロバイファンクショナルクロスリンカーを利用します。通常クロスリンカーの一方にタンパク質中のアミノ酸側鎖と特異的に反応する官能基をもち、もう一方に紫外光照射により非特異的に反応する光反応性の官能基をもち、さらに光反応性の官能基側に還元剤で切断可能なジスルフィド結合をもつようなクロスリンカーを利用します。このようなクロスリンカーをbaitタンパク質に結合させた後、preyタンパク質と相互作用させます。次に相互作用複合体に光照射を行うと複合体が共有結合的に架橋されます。この複合体を還元剤で処理するとラベルがpreyタンパク質側に転移します。転移したラベルを用いることによりpreyタンパク質を検出することが出来ます。ラベル転移反応法は、架橋反応法と同様に、アフィニティーの弱い相互作用の解析に有用なだけでなく質量分析を用いた相互作用部位の同定にも利用できます。
相互作用マッピング法
タンパク質中のアミノ酸側鎖と特異的に反応する官能基をもつ金属キレートタンパク質分解試薬をbaitタンパク質に結合させた後、preyタンパク質と相互作用させます。次に相互作用複合体に分解反応開始剤を添加すると金属キレート試薬がpreyタンパク質のペプチド結合を切断します。切断されたpreyタンパク質断片を解析することで相互作用部位を同定することが可能です。
表面プラズモン共鳴法
金薄膜表面にbaitタンパク質を固定化し、ここにレーザー光をあてます。preyタンパク質がbaitタンパク質と複合体を形成したとき、レーザー光の屈折率が変化します。表面プラズモン共鳴法ではこの屈折率変化をモニターすることにより相互作用解析を行う手法です。時間軸に対する変化をリアルタイムで測定することが可能です。
FRET(Fluorescence resonance energy transfer)法
2種類の蛍光分子について、励起スペクトルが短波長側にある一方の蛍光分子(供与体)に励起光を照射すると生じる蛍光スペクトルが、もう一方の蛍光分子(受容体)の励起スペクトルと重なる場合、受容体側の蛍光スペクトルに相当する光が検出されます。2種類の蛍光分子が近距離(<10 nm)に存在するときに起こるこの蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を利用してタンパク質の相互作用解析を行うことができます。すなわち2種類の蛍光分子をそれぞれ融合(またはラベル)したbaitタンパク質とpreyタンパク質を混合し、FRETが起こるかどうかで相互作用の有無を解析します。
最後に
タンパク質相互作用解析は、個々のタンパク質機能、細胞内タンパク質ネットワーク、さらには細胞内プロセス(細胞周期のコントロール、細胞分化、シグナル伝達、転写、翻訳、翻訳後修飾、輸送など)を解明する上で重要な研究手法です。サーモフィッシャーサイエンティフィックでは、相互作用解析を行うためのさまざまな試薬やキットをラインアップしています。今回は、タンパク質タンパク質相互作用を想定して解析法を紹介しましたが、ほとんどの手法がタンパク質と核酸との相互作用解析にも利用可能です。タンパク質と核酸との相互作用解析にはゲルシフトアッセイ(EMSA: electrophoretic mobility shift assay)手法も広く利用されています。
次回は、in vitroタンパク質相互作用解析法のうち、共免疫沈降法について解説します!
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