検量線をひかずに定量する比較Ct法とは?|今こそ本気で徹底理解! リアルタイムPCR講座 第13回


年々、進化し続けるリアルタイムPCR。一昔前は当たり前だったやり方が、必ずしも最適とは言いきれない場合も出てきています。その1つの例が、検量線法です。

リアルタイムPCRで検量線をひく場合、先ずは標準サンプルを測定し、作成したスタンダードサンプル検量線をもとにサンプルの定量を行います(図1)。

qpcr-basic13-fig1

図1:標準サンプルの検量線から未知サンプルの濃度を求める方法(検量線法)

このような検量線法は、増幅効率を反映するため、正確な定量結果を得ることができます。しかし近年は、より効率的な実験ができる「比較Ct法(⊿⊿Ct法)」が、検量線法に代わって研究現場でつかわれるケースが増えてきています。
比較Ct法の一番の特徴は、「検量線をひかなくとも良い」ということです。標準サンプルの測定をおこなわず、内在性コントロールでサンプル間の補正をし、相対定量します。検量線作成のために使用する試薬の量を減らすことができ、実験の操作も少なくてすみます。多サンプルを処理できるメリットもあるので、コツをおさえて、ぜひ活用いただきたいです。
なるほど。では、比較Ct法の原理をみていきましょう。

比較Ct法とは、基準となるサンプル(キャリブレーター)と比較して、未知サンプルが何サイクル早く、あるいは何サイクル遅くThreshold Lineに到達するかを検出し、相対定量する方法です。検量線法で必要とされる標準サンプルの測定はいりません。

そもそもリアルタイムPCRの定量が、“増幅産物がある量に達するのに、PCRを何サイクルおこなったかがわかれば、初期量がわかる”という理論に基づくことを覚えていますか?テンプレートの初期量をサイクル数というものさしで計るのが、リアルタイムPCR。つまり、テンプレート間でPCR反応を1サイクルまわすことで生じる増幅産物の量の差は、初期テンプレート量の違いを反映しています。

ここで大事なのは、PCRの増幅効率が1であれば、増幅曲線が1サイクル早く立ち上がることはテンプレートの初期量が2倍である、逆に1サイクル遅く立ち上がるとことはテンプレートの初期量が半分である、という法則が成り立つことです(図2)。

qpcr-basic13-fig2

図2:初期テンプレート量が既知の3つのサンプル(1,250、5,000、20,000コピー)に対する増幅曲線。Threshold Cycle(Ct)は各増幅曲線の間隔が2サイクルずつ異なっている。このことから、各々サンプルの初期テンプレート量が2の2乗、つまり4倍ずつ異なることがわかる。

比較Ct法では、この“1サイクルの検出の違いが、2倍量の差である”という理論をつかい、定量結果を2サイクル数の差倍という式(式①)で求めます。

$$2-\Delta \Delta { C }_{ t }\cdots \cdots 式①$$
⊿Ctと⊿⊿Ctの求め方

1. ⊿Ct=ターゲット遺伝子÷内在性コントロール遺伝子(乗数の割り算は引き算)
∴⊿Ct=ターゲット遺伝子Ct-内在性コントロールCt
2. ⊿⊿Ct=各サンプル÷キャリブレータサンプル(乗数の割り算は引き算)
∴⊿⊿Ct=各サンプル⊿Ct-キャリブレータサンプル⊿Ct

※比較Ct法が成立する条件

  • ターゲット遺伝子と内在性コントロール遺伝子のPCR効率がほぼ等しい
    • 希釈によって⊿Ct値が変動しない=検量線を描いた時の傾きが同じ
  • PCR効率が1に近い
    • 設計のガイドラインに基づくとPCR効率の下がらない短いAmpliconサイズの設計が可能

※キャリブレータサンプルは、刺激前サンプルや0時間サンプルなど相対量の基準にしたいサンプルを1つ設定

次回は、実際の実験データを取り上げながら、比較Ct法を極めます。お楽しみに!

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