リアルタイムPCRの実験デザインの最終段階は、ここまで検討してきたパラメータが、効率、感度および再現性の高い実験につながっていることを検証することです。今回は、リアルタイムPCRにおける検量線による効率、感度および再現性の評価についてご紹介します。
リアルタイムPCRにおける反応効率
前述したとおり、リアルタイムPCRの全体としての効率はRT (Reverse Transcription) 反応およびPCR増幅反応それぞれの効率に依存しています。
RTの効率はcDNAに逆転写されたターゲットRNAの割合により評価されます。低い逆転写率は感度に影響を与えますが、試料間の逆転写率のばらつきのほうがより大きな問題です。
PCRの増幅効率はリアルタイムPCRにおいて最も一貫性のある因子です。しかし、この増幅はRT効率における変動を指数関数的に拡大し、誤った結果をもたらす可能性があります。100%の効率とはサイクル毎にテンプレートが完全に2倍に増幅することに相当しますが、アッセイ検証における許容範囲は90%~110%と言われています。この効率の範囲は、検量線の傾きでは–3.6から–3.1に相当します。図1のグラフでは、反応効率に依存した測定バイアスが示されています。
比較するすべてのターゲット(例:コントロール遺伝子および実験対象の遺伝子)に関する反応効率を検証し、得られた効率ができる限り同等になるように最適化し、データ解析時に補正することにより、効率の差を低減することが可能です。

図1 異なる増幅効率により生じるバイアス効果:70%~100%の効率を示す4つの異なるリアルタイムPCR。初期においては、差は必ずしも明らかではありません。しかし、30サイクル後には、70%の効率の反応と100%の効率の反応の間でコピー数に100倍の差が生じています。効率の差はサイクル数の多い反応およびより高い感度を必要とするアッセイにおいてより重要です。
反応効率は検量線を作成することによって最も適正に評価できます。検量線は、核酸の段階希釈試料を調製し、リアルタイムPCRを行うことにより作成します。核酸量をX軸、CtをY軸として結果をプロットします。検量線の作成に使用した試料は実験に使用する試料と(できる限り)類似していることが必要です(例:同じトータルRNAまたはDNA試料)。希釈範囲または検量線のダイナミックレンジは実験試料において予測される濃度範囲をカバーする必要があります。検量線の傾きを使用して反応効率を算出しますが、反応効率の適正値としては、90%~110%が一般的です。
以下に示す例(図2)では、3つの異なるターゲットについて検量線を作成しています。赤色と青色の検量線が平行であることから、これらの効率は同等ですべての希釈段階において正確に比較することが可能であることが示唆されています。このタイプの比較の例としては、ノーマライザー遺伝子をターゲット遺伝子と比較して、試料間の実験誤差を補正する場合が挙げられます。しかし、紫色のケースは低濃度において効率が低下しており、低濃度において比較対照として使用することは不可能です。
実験条件を評価し、相対定量結果にPCR効率を考慮することに加えて、特定の反応に関する問題が阻害によるものであるか、あるいは最適化の不足によるものであるかを同定するために検量線を使用することも可能です。
リアルタイムPCRにおける感度および再現性
効率が最適な90%~110%にある検量線により、リアルタイムPCRにおいて測定可能なテンプレートのインプット量の範囲を決定します。感度は、ターゲットのCtが増幅プロットにおいていかに早く現れるかによって決定される場合もあります。しかし、感度は本来、いかに少ないテンプレートが最適な増幅効率を維持した状態で検量線にフィットするかどうかで評価されるべきです。検量線にフィットする最も低い試料濃度から反応の感度を決定します。
検量線には反復の再現性の基準となる、R2値が付随します。検量線を複数回繰り返し作成し、一貫性およびそれに伴う試料のデータ精度が維持されているかどうかを評価することが可能です。
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