シーケンス解析のトラブルシュート:シグナルの開始が遅れる

シーケンス解析の結果、いつもより読めた長さが短かった経験はありませんか?その原因は、シグナルの開始の遅れかも知れません。シーケンサでランを開始すると、一定時間、データの取り込みが行われます。シーケンス解析の際に、シグナルの開始が遅れ、波形が全体的に遅延すると、波形の途中でデータの取り込みが終了するため、解析できる塩基数が短くなってしまいます。本ブログでは、シグナルの開始が遅れる原因と対処法をご紹介致します。

シグナルの開始が予想よりも遅い

解読できたシーケンスが予想より短いなど、シーケンス解析結果に不具合が見られた場合は、Raw Dataを確認します。Applied Biosystems™ Sequencing AnalysisソフトウエアでのRaw Dataの確認手順は、こちらをご参照ください。シグナルの開始が遅れた場合、Raw Data前半に、波形がみられない空白の領域が、通常より広くみられます(図1)。

図1. シグナルの開始が遅れたRaw Data例

図1. シグナルの開始が遅れたRaw Data例

シグナルの開始が遅れた場合に予測される原因と対処法は以下の通りです。

予測される原因 対処法
実験室の温度が低い
  • 温度を安定させる
  • 適切な温度で、再度サンプルをランする
バッファーが冷えている
  • バッファーを室温に戻してから、再度サンプルをランする
ポリマー、または、キャピラリーが劣化している
  • 新しいポリマー、キャピラリーアレイに交換する

シグナルの開始が予想よりも遅く、分離能も低下している

キャピラリー内でのDNAの分離能が低下すると、ピークの幅が広くなります。シグナル開始の遅れと併せて、分離能も低下している場合(図2)、上表の内容に加え、以下の原因と対処が考えられます。

図3. シグナルの開始が遅れと分離能の低下がみられるRaw Data例

図2. シグナルの開始が遅れと分離能の低下がみられるRaw Data例

予測される原因 対処法
シーケンス産物(※1)のキャピラリーへのオーバーロード
  • シグナル強度を確認し(※2)、高すぎる場合は、ローディングするシーケンス産物の量を減らして再度ランする
    <ローディング量を減らす方法>

    • サンプルをHi-Diホルムアミドで希釈する
    • シーケンス反応に使用するテンプレート量を減らす
キャピラリーがコンタミネーションしている
  • サンプルを再度ランする(※3)
キャピラリーにポリマーが充填されていない
  • ポリマーが漏れていないか確認する
    <Applied Biosystems™ SeqStudio™ジェネティックアナライザ>
    カートリッジを確認し、ポリマーの析出が見られる場合は、新しいカートリッジに交換

    <Applied Biosystems™ 3500シリーズ、Applied Biosystems™ SeqStudio™ Flexシリーズジェネティックアナライザ、Applied Biosystems™ 3730xl LV>
    赤枠部にポリマーの析出が見られる場合は、析出物をふき取る。締めが甘い場合は、増し締めする。

<3730xl LV>
Water wash メンテナンス後、流路内に水が残留していた
  • ウィザードを使用して、流路内にポリマーを充填する。

図2. Sequencing Analysisソフトウエアからのラン情報の確認

図3. Sequencing Analysisソフトウエアからのラン情報の確認


※1 蛍光標識されていないDNAやRNAに起因する場合もあります。
※2 Sequencing Analysis ソフトウエアの「Annotation」タブをクリックし(図3)、「Ave Signal Intensity」を確認します。Ave Signal Intensityは、塩基ごとの平均シグナル強度で、この数値が10,000 RFUを超える場合はシグナルが高すぎます。
※3ランの直前には必ず、キャピラリー内の使用済みポリマーの除去と新しいポリマーの充填が自動的に行われます 。このポリマーの入れ替えにより、キャピラリー内に混入した夾雑物が除去されることがあります。

まとめ

シーケンス解析の結果、読めた塩基の長さが予想より短い場合は、Raw Dataの確認をお勧めいたします。もし、Raw Dataのシグナルの開始がいつもより遅い場合は、本ブログでご紹介した原因と対処を参考にしてみてください。

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