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発現解析はSuperScript Reverse Transcriptase(RT)で効率よく
大木理恵子氏( 国立研究開発法人国立がん研究センター研究員)
浅野良則氏( 早稲田大学先進理工学研究科博士課程)
細胞周期の停止やアポトーシスなどを引き起こす転写因子として知られる、がん抑制遺伝子p53。その標的となる遺伝子は多岐にわたります。「私たちは10年ほど前に235個のp53標的遺伝子を同定しました」と語るのは、国立がん研究センター主任研究員の大木理恵子氏。大木氏は、p53の研究を20年に亘って続け、今回新たにがん増殖に必要な遺伝子を発見しました。「p53遺伝子の発現に強く依存する、機能不明なp53標的遺伝子IER5に着目しました。そして、IER5は熱ショックタンパク質(HSP)の転写因子であるHSF1と結合、活性化させることで、低酸素や栄養不足といったストレスからがん細胞を保護していることがわかりました」と語ります。
未知なる遺伝子IER5とがん細胞増殖との関わりが明らかに
今回の研究で、IER5は腎がん、大腸がん、膵がんなど様々ながんで発現が上昇しているほか、発現を抑制するとがん細胞の増殖が抑制されることがわかりました。「さらに興味深いことに、IER5によるHSF1活性化メカニズムを詳細に解析すると、脱リン酸化で活性化することがわかったんです。質量分析(LC-MS)から、リン酸化部位の同定もできました。これまでHSF1は、リン酸化レベルの高い状態で活性化することが知られていましたが、今回のように脱リン酸化でリン酸化レベルが低下した状態でも活性化するという報告は初めてでした」。これまで複数のp53標的遺伝子の機能を明らかにしてきた大木氏。「機能未知の遺伝子の研究は、結果が伴うとは限らず、難しい面もありますが、研究者として挑戦すべきこと」と語ります。
発現解析のcDNA合成はSuperScript RTで
各臓器でのIER5遺伝子の発現量の計測はリアルタイムPCRシステムで行い、cDNA合成には、15年ほど前からInvitrogen™ SuperScript™ RTを使用してきたと語る大木氏。「ここぞという時には信頼できる酵素ですね。新発売のSuperScript Ⅳ RTは、収量が低いRNAや、分解したRNAでも逆転写できる点を期待しています。RNAが分解しやすい臨床サンプルを発現解析する機会が多いめ、cDNAテンプレートの品質は、その後の実験を左右しかねません。実際にかなり分解が進んだマウス膵臓のRNAサンプルで検証したところ、他社酵素よりも逆転写反応が進むことを確認しました(表)」と続けます。
[逆転写酵素の比較]
分解が進んだマウス膵臓のRNAを逆転写後、各サンプルにおけるGAPDH遺伝子発現をリアルラタイムPCRで測定、CT値を比較しました。
新たな分子標的薬の開発につながる成果
「今後、IER5に関する動物モデルの作出やHSF1の活性化に関与する低リン酸化の作用機序を詳細に調べ、IER5やHSF1が関わるHSP発現経路とがん化との関わりを解明していきたい」と大木氏。今回の研究を共に担当した浅野良則氏も「IER5の機能を阻害する化合物を開発すれば、がん治療の分子標的薬の創出につながります。臨床研究につなげていきたい」と語ります。p53遺伝子が関わるがん化の分子メカニズム解明に向けたさらなる挑戦が続きます。
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ライフサイエンス情報誌「NEXT」
当記事はサーモフィッシャーサイエンティフィックが発刊するライフサイエンス情報誌「NEXT」2016年5月号からの抜粋です。
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