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毒性の低いGeneArt Platinum Cas9 Nucleaseで効率を向上
近藤 玄 氏(京都大学ウイルス・再生医科学研究所 統合生体プロセス分野・教授/附属再生実験動物施設・施設長/京都大学大学院医学研究科・遺伝子改変動物学・教授)
渡邊仁美 氏(京都大学ウイルス・再生医科学研究所 附属再生実験動物施設・助教)
この1年で成功したマウス個体のゲノム編集は20例に上るという近藤玄氏。京都大学ウイルス・再生医科学研究所附属再生実験動物施設の施設長として、学外からも遺伝子改変マウス作製の相談を受けています。トランスジェニックマウス作製歴30年で蓄えた基盤技術を支えに、CRISPR/Cas9システムを効率的に使いこなします。近藤氏と共に実験を進める渡邊仁美氏にも技術改善のポイントを伺いました。
ノックイン効率を着実に向上
2年前にCRISPR/Cas9技術の導入に踏み切ったという近藤氏。「立ち上げに苦労する例も聞きますが、受精卵へのインジェクションや子宮への移植、マウスの飼育やモザイク個体から体外受精を経てホモの個体を選抜するまで、それまでに積み上げてきたトランスジェニックマウス作製のノウハウが役立ち、スムーズに軌道に乗りました」と基盤技術の重要性を指摘します。ただしCas9 DNAベクター導入だけではノックイン個体が思うように得られず、同時にmRNAを打ち込むなど試行錯誤の末、ガイドRNAとともにCas9タンパク質を打ち込む現手法に落ち着きました。
渡邊氏は効率的な実験の流れを次のように説明します。「1遺伝子の改変には、200個ほどの卵にインジェクションを行い、翌日、順調に発生が進む9割ほどの2細胞期の卵を子宮へ移植。左右の子宮に10個ずつ移植し、計10匹程度のマウスを育て、生まれた40匹ほどの仔の中から目的の遺伝子型を持つ個体を探し、ヘテロの場合には体外受精でホモ系統を樹立します。共同研究者から依頼を受け、遺伝子改変個体の候補を手元に届けるまで、およそ1か月ほどです」。
「遺伝子破壊やオリゴヌクレオチドのノックインの成功率は8-9割と高率です。ただし長いレポーター遺伝子などのノックインには苦労しました。そこで効率の向上を追求し、他製品に比べ毒性が低いためかマウスの着床率が高いInvitrogen™ GeneArt™ Platinum Cas9 Nucleaseを選びました。現在、ノックインの効率は1割ほどにまで上がり、ほぼ確実に系統を樹立できるようになりました」と近藤氏と渡邊氏は検討結果を話します。
ゲノム編集技術は基盤技術の1つ
従来のES細胞を介したノックイン技術では、巨大なベクターを実験ごとに作ったり、樹立された特定の細胞株しか使えなかったりと制限がありました。「以前は年間2系統の樹立がやっとでしたが、ゲノム編集を活用するようになり、年間20系統を樹立できるようになりました。多重変異体を作製できる点も良いですね」と近藤氏。自身の研究にも、精子の受精能の獲得に必要なオス側・メス側の因子を潰した系統を複数作り、解析を進めています。「ゲノム編集を研究する時代は終わりました。これからは、遺伝子改変マウスが1つのピースとなり、全体のストーリーができあがる時代です」。近藤氏が樹立した遺伝子改変マウスは、国内外の数々のビッグプロジェクトを支え、今後大きな成果につながっていくようです。
最大のゲノム編集効率、最小限のオフターゲット切断を実現!
GeneArt Platinum Cas9 Nuclease(核移行シグナル付き)
GeneArt Platinum Cas9 Nucleaseは、核移行シグナル付きの野生型Cas9タンパク質であり、CRISPR-Cas9システムで使用するゲノム編集ツールです。ガイドRNA(gRNA)と安定したリボタンパク質(RNP)複合体を形成させて細胞へ導入。DNAフォーマットやmRNAシステムよりもはるかに高い編集効率を実現し、細胞から急速に除去されるため、オフターゲット切断を最小限に抑えます。
GeneArt Platinum Cas9 Nucleaseの詳細情報はこちらから
ライフサイエンス情報誌「NEXT」
当記事はサーモフィッシャーサイエンティフィックが発刊するライフサイエンス情報誌「NEXT」2017年3月号からの抜粋です。
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