▼もくじ
はじめに
前回は、物性としての粘弾性と動的粘弾性測定の概念について解説し、おわりに水あめとマヨネーズを例に取り上げて、複素平面上におけるそれぞれの弾性率のイメージをつかんでいただきました。
今回は、これらの動的粘弾性試験を行い、レオメーターの入門機として最適なHAAKE™ Viscotester™ iQをご紹介しながら、測定方法や実際に測定したデータの読み方について解説します。
HAAKE Viscotester iQ レオメーターの概要
今回測定に用いたHAAKE Viscotester iQ レオメーターは、コンパクトでありながら、回転粘度だけでなくオシレーション(振動)による粘弾性測定も可能です。通常、レオメーターの動作には、レオメーター本体のほかにエアーコンプレッサーや循環恒温槽などの付帯設備が必要ですが、最新のテクノロジーを駆使したViscotester iQは、本体一台で基本的なレオロジー特性を網羅することが可能です。また、Viscotester iQは応力制御だけでなく、ひずみ制御にも対応し、サンプルの微小な構造を壊さずに測定することができます。
Viscotester iQ レオメーターのその他の特長
- ペルチェ式高精度温度制御モジュール:0 ~ 150 ºCまで対応
- 本体一台で、共軸二重円筒およびプレート測定が可能
測定概要
オシレーションによる測定では、プレートの間に挟んだ試料に振動による周期的なひずみ(または応力)を印加し、応答としてのせん断応力の波形とそれらの位相差から、貯蔵弾性や損失弾性などの各粘弾性率を測定します (図1)。
今回は、水あめとマヨネーズを用いて粘弾性評価を行い、動的粘弾性試験のうち、振幅依存性測定ならびに周波数依存性測定の方法を紹介します。以下に、それぞれの測定概要について説明します。
振幅依存性測定
本測定では、一定の周波数のもとでひずみ振幅を段階的に増大させていき、そのときの応答波形を観測します(図2)。微小振幅から測定を開始することにより、材料の持つ微細な構造の把握から、振幅の増大に伴う構造破壊や流動に至るまでの一連の過程を観察することができます。
周波数存性測定
本測定では、一定のひずみ量(あるいは応力)のもとで周波数を徐々に変化させていき、そのときの応答波形を観測します(図3)。一環して微小振幅を与えて測定することになるため、構造を破壊することなく、純粋に周波数(速度や時間に対応)に対する依存性を評価できます。
測定条件
- 共通
- ジオメトリ: φ 60 mmパラレルプレート
- ギャップ: 0.5 mm
- 温度: 20°C
- 振幅依存性測定
- 周波数: 1 Hz(固定)
- ひずみ量範囲: 0.006 ~ 600%
- 周波数依存性測定
- 周波数: 20 ~ 0.1Hz
- ひずみ量: 0.02%(固定)
測定結果および評価
以下に、動的粘弾性による振幅依存性測定および周波数依存性測定の結果を示します。
振幅依存性測定
図4は、ひずみ量と複素弾性率[G*](ひずみ量と応答応力の比)の関係を示しています。[G*]が大きいということは、同じ量を変形させる場合に、より大きな力を要することを意味します。図4の結果から、マヨネーズよりも水あめの方が[G*]が大きいことが分かります。水あめとマヨネーズを指で押したときに水あめの方が抵抗を感じることからも、実際の現象と一致していることが分かります。
図5は、複素弾性率[G*]をさらに二つの弾性率に成分分けした結果です。[G’]は貯蔵弾性率と呼ばれ、フックの法則に基づく弾性率であり、[G”]は損失弾性率と呼ばれ、ニュートンの法則に基づく弾性率です。[G*]は固体的な要素、[G”]は粘性(液体)的な要素としてとらえるとイメージしやすいかもしれません。
水あめとマヨネーズでそれぞれの弾性率の比率を比較すると、水あめでは終始G”>G’の関係であることから、変形(ひずみ量)の大きさによらず「流体」であることがわかります。一方、マヨネーズは低ひずみ量ではG’>G”であり、途中から逆転してG”>G’となることから、微小変形(静置に近い状態)時は固体的に振る舞い、変形を大きくしていくと固体として維持していた構造が壊されて流動に転じることが分かります。マヨネーズのチューブを逆さにしても垂れ落ちてこないことは、このデータから類推できます。
周波数依存性測定
この測定では、二種類のマヨネーズを使って粘弾性の違いを説明します。図6には、位相差[δ]ならびに複素弾性率[G*]を示しています。横軸の周波数は時間に置き換えて考えることもでき、その場合、高周波数(高速)側は短時間での動きを測定し、低周波数(低速)側は長時間測定したことと同じになります。位相差は45°を境にして、大きくなるほど複素弾性率に占める損失弾性率[G”]の比率が支配的になることを示し、逆に小さくなるほど貯蔵弾性率[G’]が支配的になることを示します。
図6より、複素弾性率[G*]は測定範囲全域でマヨネーズAの方がBよりも高く、相対的に「硬い」ことが読み取れます。位相差に着目すると、両者ともに測定範囲全域にわたり45°以下で推移していることから、「固体的」であることが分かります。Aの方が位相差の値が低く、また測定範囲において変化が小さいことから「保形性」が高いことが推察されます。これは、実際に静置したマヨネーズを観察した結果(図7)とも一致していることが分かりました。
まとめ
今回は、粘弾性特性が大きく異なり、実際の現象と結びつけやすい水あめとマヨネーズを題材に、動的粘弾性測定の概要や測定データの読み方、評価例について解説しました。次回は、動的粘弾性測定の詳細な条件設定手順やその考え方についてご紹介します。
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