DNAの塩基配列を決定するサンガーシーケンス法は、今でもゲノム編集の確認から遺伝子診断研究まで幅広く使用されている方法です。今回のブログではPCR装置でサイクルシーケンス反応が終わったら、そのままPCR装置に置いておいても大丈夫ですか?どのくらい放置しても大丈夫ですか?というお声を参考に、サイクルシーケンス反応後の産物を一定期間保管した影響を確認してみました。
材料と方法
使用試薬
- pGEM-3Zf(+) DNAコントロールベクター(200ng/uL)
- -21M13プライマー(0.8pmol/uL)
- Applied Biosystems™ BigDye™ Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit
- Applied Biosystems™ BigDye™ XTerminator™ Purification Kit
サイクルシーケンス反応は以下の条件で調製
Ready Reaction Mix x5 Sequencing Buffer コントロールDNAベクター プライマー 脱イオン水 |
2 μL 3 μL 1 μL 4 μL 10 μL |
全量 | 20 μL |
Applied Biosystems™ MiniAmp™ Plus Thermal Cyclerを使用し標準のサイクルシーケンス反応を実施
反応後の産物は以下の3つの条件を検証
- すぐに精製ステップへ
- 冷蔵・遮光で1日保管後、精製ステップへ
- 冷蔵・遮光で7日保管後、精製ステップへ
BigDye XTerminator Purification Kitで精製
Applied Biosystems™ SeqStudio™ Genetic Analyzerを使用しLongSeq_BDXの条件でランを実施
結果
数値はすべてn=2、同一サンプルを2回ランした平均値を算出しています。
- 高いクオリティ(QV値20以上)で塩基配列決定された連続塩基長
数値はSequencing Analysis Software ReportのLength of Readを使用
すぐに精製ステップ | 878 bp |
冷蔵・遮光で1日保管 | 850 bp |
冷蔵・遮光で7日保管 | 882 bp |
サイクルシーケンス反応後に7日間保管しても適切に塩基配列決定されました。
- サンプルピークの高さの平均値
数値はSequencing Analysis Software AnnotationのAve Signal Intensityの平均値を使用
すぐに精製ステップ | 718 |
冷蔵・遮光で1日保管 | 565 |
冷蔵・遮光で7日保管 | 496 |
サンプルピークの高さは1日保管で約20%、7日保管で約30%低下しました。
下図はSequencing Analysis SoftwareのRawデータ Y軸は3000にセット
- サンプルピークのシグナル/ノイズ
数値はSequencing Analysis Software ReportのAvg S/Nを使用
すぐに精製ステップ | 152 |
冷蔵・遮光で1日保管 | 128 |
冷蔵・遮光で7日保管 | 114 |
サンプルピークのシグナル/ノイズは1日保管で約15 %、7日保管で25 %低下しました。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
反応後は早めに次の精製ステップにすすんだ方がよいようです。
今回の試験では、塩基配列決定された長さに影響はありませんでしたが、サイクルシーケンス反応後の保管期間の長さにより、サンプルピークとシグナル/ノイズの低下がみられました。
サンプルピークの高さは、テンプレートDNAの質や量、配列情報に依存します。そのため保管期間の長さだけでなくテンプレートDNAや反応条件によっては、サンプルピークの低下が塩基決定に影響を与える可能性も考えられます。
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研究用にのみ使用できます。診断目的およびその手続き上での使用はできません。