白血病の化学療法抵抗性

白血病において腫瘍が化学療法抵抗性を獲得すると考えられる原因に、液性腫瘍が固形腫瘍のような挙動を示すことが挙げられます。白血病患者が寛解に向かうとき、がんは制御下にはあるものの、根絶されることはほとんどありません。白血病細胞は血液および骨髄から発生し、固形腫瘍のように切除することは不可能であるため、液性腫瘍とされています。このことは、不可能ではないにしても、全てのがん細胞を除去することを困難にしています。治療後に残存したがん細胞は、化学療法剤に対する抵抗性を獲得する可能性があります。

研究者は、白血病細胞が髄外(血液や骨髄の外部)に固形腫瘍を形成することを発見しました。この白血病細胞由来の腫瘍は化学療法抵抗性につながる変化を引き起こして骨髄に転移し、抗白血病薬に抵抗性を持つ可能性があります。そのような腫瘍の動態については明らかにされていないことが多く、どのようにして抵抗性を獲得するのかも解明されていませんでした。

▼こんな方におすすめです!
・血液腫瘍の研究に興味がある
・腫瘍の治療抵抗性獲得について知りたい
・次世代シーケンス解析に興味がある

遺伝子発現プロファイリングによる白血病性腫瘍の特性解析

Cunningham のチームでは、単一器官における白血病性腫瘍の自然経過を研究するために、白血病性の乳腺腫瘍を使用したbedside-to-bench のパイロットスタディを実施しました。彼らの発見は驚くべきもので、白血病細胞が固形腫瘍のような挙動を示していました。

Cunningham らは Ion AmpliSeq™ Transcriptome Human GeneExpression Kit を使用したターゲットNGS アッセイにより、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)乳腺腫瘍検体から抽出した低品質なRNAを用いて、20,000を超える既知遺伝子のプロファイル解析を行いました。彼らは、白血病性乳腺腫瘍と固形乳腺腫瘍の遺伝子発現プロファイルに顕著な類似性があることを発見しました。

微小環境での細胞間相互作用による腫瘍細胞の変化

白血病性の乳腺腫瘍と固形乳腺腫瘍の増殖における他の臨床的な類似性も併せて考えると、白血病性の乳腺腫瘍は異常な微小環境における細胞間相互作用によって形成されることが示唆されています。これは、1889年にPagetが「seed-and-soil」仮説として提唱しており、種子が肥沃な土壌でのみ成長するように、がん細胞は局所的に微小環境が良好な部位でのみ腫瘍を形成すると述べられています[1]。

循環血液中の白血病細胞を死滅させるよう設計された抗白血病薬の有効性が、微小環境中の相互作用による髄外腫瘍の変化により低下する可能性があり、これにより細胞が化学療法抵抗性を獲得したとみなされます。Cunninghamらは、「抗白血病薬が循環白血病細胞を死滅させる間に、増殖・転移する白血病腫瘍を根絶できないということは、腫瘍が生着した器官の環境がこれらの薬剤の影響を受けない可能性を示す」と述べています。

さらに彼らは、すべての患者において白血病が液性がんであるとみなすと、白血病細胞が生育しやすい環境の臓器に定着し、固形腫瘍の挙動を獲得して治療に影響を与える可能性を見落とすリスクがあると指摘しています。Cunninghamのチームによって実施されたパイロットスタディにより、研究者は白血病について考え、治療法の確立に挑戦します。髄外腫瘍と骨髄腫瘍の遺伝子発現プロファイルを相関させるにはさらに多くの研究が必要ですが、髄外の環境を予測し、治療による白血病の改善を示す遺伝子(バイオマーカー)の同定につながることが期待されます。

まとめ

・白血病性乳腺腫瘍と固形乳腺腫瘍の遺伝子発現プロファイルに顕著な類似性があることが示唆される
・白血病性の乳腺腫瘍は異常な微小環境における細胞間相互作用によって形成されている可能性がある
・腫瘍や腫瘍微小環境の評価にはNGSによる発現解析が有用である

本記事で紹介されている論文は、以下よりご参照ください。
Cunningam I, Hamele-Bena D, Guo Y et al. (2019) Extramedullary leukemia behaving as solid cancer: clinical, histologic, and genetic clues to chemoresistance in organ sites. Am J Hematol 94:1200–1207.

Ion AmpliSeq Transcriptome の詳細は、こちらからご覧ください。

白血病を含む血液腫瘍の遺伝子プロファイリングの詳細はこちら

引用文献:
[1] Paget S (1889) The distribution of secondary growths in cancer of the breast. The Lancet.133(3421):571–3.

研究用にのみ使用できます。診断用には使用いただけません。

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