異物分析では、顕微ATRが簡単で便利です。接触できるスペースがあれば、サンプリングを必要としません。しかし、ATR法は、1、2ミクロンの表面情報が主体になり、内部まで、表面と同じ成分とは限りません。もし、試料にバルク(厚み)があり、大きさが20ミクロン程度の場合、全情報が得られる透過法を選択するのが無難です。また、この位の大きさならサンプリングの成功率は高いです。
ここで、透過法のサンプリングについて、お話します。透過法では、ダイヤモンドセルを利用する場合が多いです。ダイヤモンドセル上にピックアップした異物を載せ、2枚のウインドウでサンドイッチさせて潰します。潰すと、試料が広がるので、複数箇所の測定を行い、単一成分かどうか、赤外スペクトルを確認します。その際、マッピングという手段もありますが、私は面倒だと感じます。もう一つの方法は、スペクトルを積算せずにプレビュー機能(赤外スペクトルと可視像の同時観察)を利用します。可視像を見ながらステージを動かし、赤外スペクトルを見て単一成分かどうか、直ちに判断できます。この機能は、マニュアルステージでも行えるため、使いやすく便利です。以下の動画をご覧ください。
便利になったと言えば、最近では多用なサンプリングツールが市販されています。
今でこそ、電解研磨された高硬度の金属プローブを入手できますが、顕微FT-IRが一般化され始めた1985年頃は、そのような金属プローブはありませんでした。したがって、当時は、縫い針(炭素鋼)を研磨して、自分のツールとして作成していました。
プローブの作成は簡単です。縫い針の研磨には、#1000以上のサンドペーパーを用います。現在ではラッピングフィルムや研磨フィルムの商品名で販売されています。文字通り、包丁を研ぐように実体顕微鏡下で、観察しながら縫い針を研磨します。右の図は左から、縫い針・研磨後の縫い針・扁平状にした縫い針・歯ブラシ加工です。試料サイズは、およそ10ミクロンを超える大きさであれば、ピックアップが可能です。さらに、試料形態によっては、金属以外の毛筆の毛、竹、歯ブラシなどを利用しています。画像にあるのは、爪楊枝に歯ブラシの繊維を瞬間接着剤で処理したものです。これは金属針が適していない場合に使用するもので、軽くて使い勝手が良く、左右の手に2本のプローブを保持して試料を取り扱えます。たとえば、ダイヤモンドセルに載せた試料を中央に寄せたい場合、柔らかい単繊維は難なく試料を移動させることができます。
便利になった顕微FT-IRとサンプリングの工夫次第で、異物分析は楽しく作業できます。
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