FT-IR(赤外分光光度計)は多くの有機材料や製品中の異物、不純物の定性分析で使用される代表的な製品の一つです。分析対象物が単純(単一)な成分であれば、ATR測定と赤外スペクトルライブラリを用いた検索機能によりわずか数十秒で物質の特定に至ります。しかしながら対象サンプルには複数成分が含まれる、いわゆる混合物(主成分、添加剤、汚染物質など)であるものがほとんどであり、その場合はこれらをそれぞれ定性する必要があります。これには経験と知識を要します。
当社FT-IR製品に付属するThermo Scientific™ OMNIC™ Spectaソフトウエアは多成分サーチ検索、不純物サーチ機能を有し、このような混合物の解析をサポートするパワフルなツールです。
今回は、OMNIC Spectaソフトウエアを用いた混合物に含まれる物質の特定例についてご紹介します。
▼こんな方におすすめです!
・FT-IRによるライブラリ検索能力を強化したい
・ラボの異物解析の能力を向上したい
混合物の赤外スペクトルの解釈と手順
通常、混合物の定性にはスペクトルの解釈および多段階の定性手順の構築が必要で、これらを行うためには多くの経験と知識を要します。混合物の定性では、まず赤外スペクトルから適切な波数範囲を選択して「ライブラリ検索」を行い、次に混合物の赤外スペクトルと得られた検索結果のスペクトルで「引き算」(差スペクトル処理)を行い、得られた差スペクトル結果について再びライブラリ検索を行います。これらの手順を繰り返し行うことで、混合物に含まれる第二、第三の成分を特定します。
この手順はFT-IRを用いた混合物の定性手段として一般的なものの、いくつかの問題点があります。一つ目は、分析者が最初の「ライブラリ検索」から得られた結果の中から適切なスペクトルを選択する必要があることです。混合物の定性では、実際に測定した赤外スペクトルに含まれる正しい検索結果が最上位に現れないことがあるため、検索結果リスト(候補リスト)の中から混合物に含まれるであろう物質を選択しなければなりません。また差スペクトルの処理には経験を有することがしばしばで、その結果、混合成分を取り除けていない、あるいは間違った差スペクトル結果を用いて、再解析を実施する可能性があり、これが誤解析の要因となります。
OMNIC Specta 「多成分サーチ」ソフトウエアの応用例
Thermo Scientific OMNIC Spectaソフトウエアは新たな混合物の分析手法を提供するソフトウエアです。通常のライブラリ検索では検索対象に似たライブラリスペクトルを表示します。これに対しOMNIC Spectaの「多成分サーチ」機能では、分析者が選択したライブラリからソフトウエアが2~4本の最適なスペクトルを抽出し、これらを任意の割合で足し合わせた合成赤外スペクトルを作成して検索結果として表示します。
具体例は下図の通りです。ある製品から発生した異物をダイヤモンドATRで測定し、得られたスペクトルについて多成分サーチを行いました。この検索により、異物の赤外スペクトルにはフタル酸エステル(可塑剤)、炭酸カルシウム(充填材)、ポリ塩化ビニール(基材)が含まれることを示す結果が得られました。炭酸カルシウムは、フタル酸エステルと同様に異物として含まれている成分の一つですが、通常のライブラリ検索では見落とすことがほとんどです。この結果において、この異物のスペクトルには3つの成分が混合していることがわかりました。
まとめ
このように、OMNIC Spectaソフトウエアの多成分サーチを用いることで、迅速かつ容易に混合物の赤外スペクトルの定性分析が可能となります。また、特別な知識を要せず信頼できる解析結果を得られるため、日々分析を行っている方だけでなく、普段FT-IRによる分析を行っていない方にもご使用いただける、非常に便利なツールです。
本アプリケーションに関してより詳しい内容は下記にて紹介されています。
OMNIC Spectaによる混合物のライブラリサーチ (thermofisher.com)
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