さてさて今回は、“リアルタイムPCRの原理”に挑みます。
まずおさえたいのは、
“PCRの1サイクルで鋳型DNAが2倍に増える”
という考え方。これはDNAの複製をイメージすると、わかりやすいでしょう。この基本の考え方をつかえば、
“増幅させたDNAがある量に達するのにPCRを何サイクル行ったかがわかれば、最初に存在したDNAの量(=初期量)もわかる”
という理論が導けます。
つまり、
“テンプレートの量をサイクル数というモノサシで計っている”のが、リアルタイムPCRなのです。
では、実験結果を見ながら考えていきましょう。
既知量のサンプルを段階希釈したスタンダードサンプルを用意し、そのサンプルをPCRで増幅します。これで得られる増幅曲線が図です。
初期量が多いウェルでは少ないサイクル数で産物が増えていくので、増幅曲線も早いサイクルで立ち上がってきます。
逆に初期量が少ないウェルではサイクル数を増やさないと産物も増えないので、増幅曲線は右の方向にシフトします(図 A)。
図 リアルタイムPCRの原理。
(A)増幅曲線を横切っている緑色の線がThreshold line
(B)スタンダードサンプルの初期量と、Threshold cycleの間には直線関係が成り立つ。 横軸:テンプレートの初期量(log表示)/縦軸:Threshold cycle
*図の右上に検量線の傾き、slopeが表示されている
増幅曲線を横切っている緑色の線をThreshold line、Threshold lineと増幅曲線の交点のサイクル数をThreshold cycleといいます。
また、スタンダードサンプルの初期量と、Threshold cycleとの間には、図 Bのような直線関係が成り立ちます。スタンダードサンプルと同時に測定したい未知サンプルを増幅すると、どこかでThreshold lineを横切ることになるので、得られたThreshold cycleと検量線から未知サンプルの量を知ることができます。
プラスミドなどコピー数が分かっているものをスタンダードサンプルに用いると、実験結果はコピー数で得られるため、絶対定量が可能になります。
サンプル間での発現量を相対的に測定したい場合は、必ずしも既知量のサンプルを用意する必要はありません。あるサンプルをスタンダードサンプルに決めて希釈系列を作成するのです。未知サンプルの定量結果は、”スタンダードサンプルの発現量を100としたときに何%”という形で得ることができます。
なるほど。じっくり順を追って見ていけば、難しくはないですね。
次回は、スタンダードサンプルについて考えます。
【無料ダウンロード】リアルタイムPCRハンドブック
このハンドブックでは、リアルタイムPCRの理論や実験デザインの設計など、リアルタイムPCRの基礎知識が掲載されています。リアルタイムPCRを始めたばかりの方やこれから実験を考えている方にうってつけのハンドブックです。PDFファイルのダウンロードをご希望の方は、下記ボタンよりお申し込みください。
研究用にのみ使用できます。診断用には使用いただけません。