RNA抽出には対象サンプルに合わせてさまざまな方法があります。中でもシリカメンブレンタイプのスピンカラムを使用した精製方法は誰でも簡単に短時間でRNAを回収できる方法の1つです。
はじめに
スピンカラムでRNA抽出するキットは当社だけでなく、さまざまなメーカーから販売されていますが、基本的な原理はほとんど一緒のはずです。今回は、当社のInvitrogen™ PureLink™ RNA Mini キット(製品番号12183020)をご紹介します。
本キットがお手元に届いた後、最初に実施していただく操作はWash Buffer IIにエタノールを規定量加えていただくことです。4 mLのWash Buffer IIに対して、16 mLの96~100%エタノールを加えて混合する必要があります(終濃度80容量%)。試薬のボトルにもエタノールを添加したことを記録するチェックボックスはあるのですが、使用途中で液量が減ってくると本当にエタノールを入れたのか不安になることがあります。では、うっかりエタノールを添加し忘れたまま実験するとどうなるのでしょうか?
結果と考察
まずはRNA抽出の結果をご覧ください。
エタノールを添加なしのWash Buffer IIを使用すると、RNAをほとんど回収できませんでした。つまり、Lysis Bufferで溶解、シリカメンブレンへのアプライ、Wash Buffer Iで1回洗浄、Wash Buffer IIで2回洗浄、RNase-Free Waterで溶出、という手順は共通だったのに、Wash Buffer IIへのエタノール添加の有無のみでRNAが回収できませんでした。
エタノールを添加し忘れると、なぜRNA抽出に失敗してしまうのでしょうか。まずは、シリカメンブレンを用いたRNA抽出の原理から考えてみましょう。通常の水やBufferなどに溶けているRNAはシリカメンブレンに結合することはできません。しかし、高濃度のカオトロピック塩(グアニジンイソチオシアネート)やエタノールの存在下では、RNAから水分子が奪われることで疎水性が高まりRNAがシリカメンブレンに結合できるようになります。
次に、それぞれのBufferの違いを考えてみましょう。Lysis BufferやWash Buffer Iはカオトロピック塩が含まれています。また、Wash Buffer IIにはエタノールを加えます。このため、溶解後のカラムへのアプライ時やWash時にはRNAの疎水性が維持されているために、RNAがシリカメンブレンに結合できていると考えられます。このような背景から、Wash Buffer IIにエタノールをうっかり加え忘れるとRNAの疎水性が失われてしまい、シリカメンブレンに結合できず、フロースルーに流れてしまったと考えられます。そんなことなら、商品にはじめからエタノールを添加しておいてくれれば良いのに、というお声が聞こえてきそうです。最初にご説明したように、Wash Buffer IIはエタノールの終濃度80容量%で使用する必要があります。しかし、アルコール濃度が約67容量%以上になると、消防法で定める危険物となってしまい輸送時にさまざまな注意が必要になります。このため、お手数をお掛けしますが、キットをお届けした後、お客さまにエタノール添加をお願いしている次第です。
まとめ
今回は、PureLink RNA Mini キットのWash Buffer IIにエタノールをうっかり添加し忘れてしまった場合の結果をお示ししました。キットを開梱した方は、Wash Buffer IIのボトルに規定量のエタノールを添加し、ボトルにあるチェックボックスへの記録も忘れないようにしてください。また、使用途中のキットを使用される場合は、エタノール添加の記録があることをご確認ください。今回のようにRNA抽出に失敗しないよう、取扱説明書に従ってエタノールを添加してから実験を始めていただければと思います。
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