弊社では発現用のマイクロアレイとしてさまざまな製品をご用意していますが、中でも次世代型マイクロアレイのApplied Biosystems™ Clariom™ Dは圧倒的なプローブ数で転写領域全体をカバーし、トランスクリプトーム解析に絶大な威力を発揮します。
Clariom Dの最大の特徴の一つはエクソンジャンクション部に設計されたプローブで、これにより選択的スプライシングを高精度で解析できます。次世代シーケンサーを用いたRNA-Seqでも選択的スプライシングは解析できますが、3億以上のリード数が必要とも言われており、解析にはコストや手間がかかります。次世代型マイクロアレイのClariom Dは簡便かつ低コストで選択的スプライシング解析ができる、弊社アレイ製品のフラッグシップと呼ぶにふさわしいアレイです。
ここでは、弊社のフリー解析ソフトを用いてClariom Dによるデータ解析の方法をご紹介します。
Clariom Dサンプルデータで入手しよう
サンプルデータは、各マイクロアレイ製品のページ内にあります。
弊社では、解析ソフトウェアでさまざまなデータ解析を試せるように、Webから自由にダウンロードできるサンプルデータをご提供しています。
はじめにヒト用Clariom Dの製品ページ を開きます。なお、Clariom DのサンプルファイルのダウンロードからTACへの取り込みまでは、ブログ「フリーのマイクロアレイ解析ソフトを使ってデータを取り込み、遺伝子発現解析をはじめよう!」の「サンプルデータをダウンロードしよう 」から「CELファイルを用いて解析開始!」までを参考にしてください。
Clariom Dのサンプルデータ名は「Sample Data: Clariom D Human Assay」で、LiverのRep1-3、MuscleのRep1-3、SpleenのRep1-3をこのブログでは選択しています。Clariom DはClariom Sよりもプローブ数が多いため、解析に時間がかかりますのでご注意ください(パソコンのスペックにもよりますが、下記の例のようにN=3で3群だと30分~40分程度かかります)。

選択的スプライシングの解析結果を見てみよう
Clariom Dの解析のQC確認方法はClariom Sを例にしたブログ「フリーのマイクロアレイ解析ソフトを使って解析データに異常がないか確認してみよう!」、遺伝子発現解析の結果は「フリーのマイクロアレイ解析ソフトを使って発現解析してみよう!」と同様です。
ここでは、Clariom Dをはじめとした選択的スプライシングの解析ができるアレイでしか確認できない「Alt-Splice View」の見方をご紹介します。
Clariom Dの解析結果の「Gene View」の右横に、Clariom Sの解析時にはなかった「Alt-Splice View」というアイコンが表示されます。これをクリックします。
すると、下記の画面が現れます。
この4つにわかれている画面は、それぞれ下図の内容を意味しています。
では、左上の「Gene Table」から見ていきましょう。
左側の背景がグレーの列は、「05_フリーのマイクロアレイ解析ソフトを使って発現解析してみよう!」でご紹介したGene Tableと同様の内容です。
右側の背景が青い列が、Alt-Splice View独自の内容で、この左下の「PSRs/JUCs Table」の一番上の行の内容がそのままここに書かれています。
それでは、この背景が青い列をもう少し詳しく見るために、「PSRs/JUCs Table」を見てみましょう。


上図のように、各PSR/Junction IDの中でEvent Scoreが高い順に並んでおり、Splicing Indexが2倍以上、P-valueが0.05未満でフィルタリングがかかっています。つまり、選択的スプライシングが起こっている可能性が高い順に並んでいることになります。なおSplicing Indexは以下のように解釈できます。
Splicing Indexの値が小さい:Liverにおいて、この部分のExonの発現量が低い
Splicing Indexの値が大きい:Liverにおいて、この部分のExonの発現量が高い
遺伝子名で検索し、解析結果を確認しよう
次に、このサンプルデータの中で選択的スプライシングがおこっている例として、Annexin A7を見てみることにしましょう。Gene Tableの下部にある検索ボックスに、「ANXA7」と入力してください。
そうすると、右上の図、右下の図、左下の表の表示が変わり、この4つの図や表はすべて連動しているのがわかります。
このAnnexin A7の「PSRs/JUCs Table」のSplicing Indexに着目してみましょう。下図のように、一番上のPSRのSplicing Indexが飛び抜けて小さい値を示していることが分かります。
これは、Liverにおいてこのエクソン領域の発現が極めて低いことを意味しています。
では次に、右上の「Alt-Splice Visualization」を見てみましょう。
まず、群名LiverとMuscleの左横の□にチェックを入れてください。
下図のように、LiverとMuscleサンプルの各エクソンの発現量が表示されました。青は発現量が多く、黄色は発現量が小さいことを意味しています。
上図では選択されているエクソン領域において、Liverでは黄色(=発現量が小さい)、Muscleでは青色(=発現量が大きい)に表示されています。下図の一番下のグラフでは、Splicing Indexごとに色分けされていますが、この選択されている場所はSplicing Indexが-112.98と、絶対値が非常に高く、選択的スプライシングが起こっている可能性が高いことが推測されます。
上図では選択されているエクソン領域において、Liverでは黄色(=発現量が小さい)、Muscleでは青色(=発現量が大きい)に表示されています。下図の一番下のグラフでは、Splicing Indexごとに色分けがされていますが、この選択されている場所はSplicing Indexが-112.98と、絶対値が非常に高く、選択的スプライシングが生じている興味深い例といえるでしょう。
次に、ビューワー下部にあるGenomic Viewに着目してみましょう。

ここには各種データベースより収集した転写産物アイソフォームが列挙されています。各スプライスバリアントのうち、Liverで発現している可能性の高いアイソフォームは上部に、Muscleの可能性が高いものは下部になるように並んでいます。
このようにして、どのようなスプライスバリアントが各サンプルで発現しているかの予想を立てることができます。
まとめ
今回はマイクロアレイの解析用ソフトウェアTAC(Applied Biosystems™ Transcriptome Analysis Console)を用いて、選択的スプライシングの解析方法について簡単にご紹介しました。
TACではシンプルな発現解析だけでなく、選択的スプライシングのような高度な解析も極めて簡単に行うことができます。選択的スプライシングによるバイオマーカー探索などをご検討の方は、是非ともTACによる解析を体験してみてください。
マイクロアレイの手引き
DNAマイクロアレイは登場してからすでに20年が経ち、同じように網羅的な発現解析が出来る次世代シーケンサーの普及もあって、熟成した技術と言えます。しかしマイクロアレイは次世代シーケンサーに比べてコスト的なメリットがあり、また解析の容易さなどから、まだまだ強力な網羅的な遺伝子発現解析が出来る技術として、近年見直されて来ている技術でもあります。
この手引きはそのマイクロアレイの原理や基礎、ワークフローなどについて学べるページです。
研究用にのみ使用できます。診断用には使用いただけません。



