STR解析の閾値を自分で設定するとなると皆さまはとても不安になるのではないでしょうか?一体閾値とは何でしょうか?どのように設定すればいいのでしょうか?
適切な閾値を設定することよって高い信頼性に基づいてデータの解釈が行えます。キャピラリシーケンサでは、STR反応より得られるサンプルのシグナル強度とピークの高さには相関性があります。ご自身で設定した閾値以上のピークを得られていれば、信頼性をもってサンプルデータの評価が行えます。そこで今回はSTR解析の閾値の設定の有効性ついてご紹介します。
なお、今回の記事はこちらのビデオも併せて参照してください。
▼こんな方におすすめです!
・キャピラリシーケンサを使ってSTR解析を実施している方
・法医学でDNA型判定を実施している方
閾値って何?
最初にSTR解析の閾値について説明します。法医学におけるDNA解析には2つのタイプの閾値があります。Analytical ThresholdとStochastic Thresholdです(以下ATとSTと呼びます)。
Analytical Threshold(AT)はノイズレベルのシグナルからピークを区別するために設定する閾値です。この閾値より高いピークは、サンプル由来のピークもしくはなんらかのアーティファクトのピークとしてノイズと区別されます。閾値より低いピークは一般的にはピークとして認識されず解析からは除外されます。ATを設定するために重要なデータは、装置と使用する キットの組み合わせによるバックグラウンドノイズの検証です。これまでは使用する各蛍光色素によって異なるノイズレベルが生じることから、各蛍光に対して異なるATを設定していました。現在、当社が販売しているApplied Biosystems™ GlobalFiler™ Amplification kitではDNAサンプルを用いた時でもノイズレベルの低いデータが得られるようになりました。このためすべての蛍光に対して1種類のATを設定することが可能になっています。実際にApplied Biosystems 3500キャピラリシーケンサとGlobalFilerキットを用いたわれわれの検証では、きれいなベースラインが得られています。
検証内容についてはGlobalFiler™ and GlobalFiler™ IQC PCR Amplification Kits USER GUIDEも参照ください。
Analytical thresholdを作ってみましょう
近年はApplied Biosystems 3500キャピラリシーケンサが多くの施設に普及してきました。これまでの装置と比較して、Applied Biosystems 3500キャピラリシーケンサはシグナル検出の分解能が高くなっています。そのためノイズレベルのピークの解析も複雑に思われる方もいるかもしれません。たとえば、500 pg以上のDNAはAT以上のプルアップピークが生じる可能性があります。さらに混合サンプルの場合は、マイナー関与者のDNAピークとプルアップピークとの区別がより困難になると予想されます。このためATの設定には適切なアリルコールがされるように、アリルとアーティファクトのバランスを検証しながら設定すべきです。一方でアーティファクトを除くためにATを設定してしまうと適切なアリルの検出ができなくなる恐れがあるため注意が必要です。
Stochastic thresholdについて考えてみよう
Stochastic threshold(ST)はStochastic効果が生じている低濃度DNAの解析に用いられます。STより高いピークが生じていればStochastic効果が生じていない、すなわちシスターアリルのドロップアウトが生じていないピークとみなすことができます。逆に、STより低い1つのピークが生じていた場合は、このピークに対するホモ接合体の信頼性は低くなります。なぜならStochastic効果によりシスターアリルのドロップアウトが生じている可能性があるためです。そのほかStochastic効果にはドロップイン、ヘテロピークのバランス比の低下、スタッターピーク比の上昇などが生じます。このようにStochastic効果は低濃度DNAのSTR反応に生じやすい傾向にあります。
STの設定は慎重に行いましょう。STが低すぎる場合、誤ったジェノタイプのコールをしてしまう可能性があります。つまりstochastic効果によりシスターアリルのドロップアウトが生じているピークをホモ接合体とみなしてしまう可能性があるためです。一方STが高すぎる場合は、本来であれば信頼性の高いピークとして判定できるデータを、疑わしいピークとして判定してしまう可能性があります。
ATとSTの間の範囲を私たちはグレーゾーンと呼びます。ピークの高さがグレーゾーンの範囲にある場合、つまりピークがATより高くSTより低い場合はstochastic効果が生じていることを考えて、慎重にピークの解釈をする必要がでてくるでしょう。
今回は、混合サンプルや低濃度DNAサンプルの評価の閾値について説明しました。しかしすべてのサンプルについて、このようなとても慎重な解析が要求されるわけではありません。たとえば状態の良い既知のシングルソースのサンプルなどが挙げられます。このようなサンプルの場合はダイレクトPCRを実施し、
1つの閾値で解析をするケースも考えられます。
まとめ
・法医学のSTR解析の閾値はAnalytical ThresholdとStochastic Thresholdがあります。
・適切な閾値の設定により、信頼性の高いデータ解析が行えます。
いかがでしたか。その他のヒト個人識別にご興味がある方はこちらのウェブサイトも確認してみてください。
研究用にのみ使用できます。診断用には使用いただけません。