LIMSのカスタマイズを最小限に
エネルギー・石油化学会社のグローバル大手であるシェル社は、20年以上前から、サーモフィッシャーサイエンティフィックのThermo Scientific™ SampleManager LIMS™ソフトウエアをご利用いただいているお客さまです。
シェル社のラボではラボ情報管理システム(LIMS)を活用し、ワークフローの効率化や、ERPシステムへの自動的なデータ移行も行っている、代表的な事例です。
シェル社が初めてLIMSを導入したのは、1990年代後半のことでした。当時多くのLIMSソフトウエアは、カスタマイズによってお客さまの個々のワークフローに対応していました。そして長い年月をかけて、各サイトの要件を満たすべくシステムの構築を行ってきたのです。各サイトのユーザーは、自分たちが所属しているサイト独自のワークフローをサポートしているLIMSに満足していました。
ただそこでの課題は、LIMSのサポートやアップグレードでした。シェル社は20種類以上の異なるサイトのラボのワークフローに対して、個別のLIMSの実装を行っていました。そのため、ソフトウエアやOS、サーバーなどのバージョンアップに対応する際、そのアップグレード作業が次第に困難になっていたのです。各サイトのLIMSの構成を維持しながらのアップグレード対応は、常に難易度が高く、プロジェクトに係る工数やコストも増加する傾向にありました。
新しいLIMS、そしてクラウドの導入
このような課題を解決するため、シェル社は最新のLIMSへの対応や、サーバーなどのインフラ環境の再検討を行いました。サーモフィッシャーのSampleManager LIMSソフトウエアは、現在さまざまな機能が強化されています。中でも大きな特徴の一つは、お客さまのラボの要件に合わせ、LIMSに搭載されている基本機能でワークフローを「設定」することにより、カスタマイズがほとんど必要ない、という点です。またシェル社は、そのような最新のSampleManager LIMSソフトウエアの特徴に加えて、従来のオンプレミスによるサーバー対応から、クラウドサーバーにLIMSを移行することも検討しました。クラウドサーバーを活用した場合、先々のLIMSに関わるアップグレードを大きく簡略化できる可能性がある、と考えたためです。そのためシェル社は、カスタマイズによって構築されていた既存システムをアップグレードする代わりに、新たなLIMSの導入を再検討し、ラボのITインフラを大きく変革させる決断をしました。
「システムのカスタマイズ文化を打開したい」というシェル社の課題は、LIMSの実装に関してだけではありませんでした。他の多くの企業と同様に、シェル社のIT部門は社内の各サイトにおける、システムのカスタマイズ文化に悩まされ続けてきたのです。
そのためLIMSだけでなく、シェル社のERP全体を継続的に改善させるためのプロジェクトが立ち上がりました。シェル社の各サイトでは、独自のプロジェクトを立ち上げ、各システムのカスタムコードのレビューが行われました。その際に見つかった課題の一つは、長い年月が経過するにつれて、カスタマイズを行った当時の担当者が別の部署に異動したり退職していたりと、過去のカスタマイズの情報を見つけることが困難なケースが多々あったことです。そのため、シェル社のITリーダーシップメンバーは、カスタマイズを行っていく文化は今後継続的でないと判断しました。
LIMSクラウド対応におけるメリット
SampleManager LIMSソフトウエアの最新バージョンにアップグレードするタイミングに、シェル社は新しいアプローチを取る決断をしました。将来的に総コストを抑えることができるプラットフォームへの移行を目指し、SampleManager LIMSソフトウエアの実装時に、クラウドサーバーの導入を決めたのです。この際シェル社は、Amazon Web Services™(AWS™)クラウドの活用を選択しました。
「社内のIT担当者の中には、クラウドサーバーへの移行にためらう人がいたのも事実です」と、シェル社のIT担当者は後に述べています。「ただし、最初のいくつかのサイトのアップデートが完了した際、彼らもこれが進むべき道であることに気が付きました」
シェル社にとって、クラウド化のメリットはすぐに現れました。アップグレードの際のプロセスが簡略化し、新しいインスタンスを数時間で立ち上げることができる場合もありました。サーバーのアップグレードの準備ができるまで、以前のように実装まで6週間も待つ必要はなくなりました。また、プライベート環境のクラウドサーバーのため、高いレベルのセキュリティが維持されるようにもなりました。また、シェル社にとってもう一つの大きなメリットは、災害時のサーバー復旧プロセスが合理化されたことです。クラウドの導入前、シェル社はデータセンターの災害復旧サービスが十分ではないと感じていました。当時はDBやアプリケーションが災害などによってダウンすると、シェル社のITチームがインシデントを提示して対応する必要がありました。そのためシェル社は毎年、各地でさまざまな種類のサーバー復旧の訓練に、何日もかけていました。
クラウドの導入において、シェル社はサーバーの障害復旧サービスに加入する必要がなくなりました。LIMSのデータベース用に、AWSの標準オプションでもあるマルチゾーンのサブスクリプションを選択したためです。あるゾーンのサーバーがダウンすると、AWSは自動的に別のゾーンにサーバーを切り替えます。また、クラウドは柔軟な容量の拡張が可能なため、必要に応じてCPU、RAM、ストレージを随時追加できるようにもなりました。
今回のSampleManager LIMSソフトウエアへの展開の成功は、グローバルのシェル社全体にとって、中長期的な利益となると考えています。シェル社のIT部門は、将来のアップグレードに係るコストを大幅削減できるようになったためです。将来的にLIMSのアップグレードを再度行った際も、プロジェクトは数カ月ではなく数週間で完了できる可能性もあります。シェル社は、他のITプロジェクトにおいても、今回のLIMSのようにカスタマイズを最低限にし、継続的にアップグレードしやすい方法を、各サイトでも推進しています。
SampleManager LIMSソフトウエアの詳細は、以下をご覧ください。
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研究用にのみ使用できます。診断目的およびその手続き上での使用はできません。