マイクロプラスチックは川や海だけでなく飲料水や大気中、深海などあらゆる場所で見つかっています。海洋生物の摂食による被害が報告されていますが、食物連鎖により生態系全体へ広がっていることが分かっています。人間も例外でなく健康への影響が懸念されています。そのため世界中の政府や研究機関などでマイクロプラスチックの評価方法の確立やマイクロプラスチックの使用を制限する法規制を進めています1。
環境中の5 mm以下のプラスチックがマイクロプラスチックと定義され、その発生源や混入経路の特定、製品の管理の目的で、マイクロプラスチックの個数や種類、大きさなどがモニタリングされています。マイクロプラスチックの定性においてはFT-IR(赤外分光光度計)が非常に有効で、さらに数百μm未満のマイクロプラスチックの分析では顕微FT-IR(赤外顕微鏡)が特に適しています。
分析する上で重要なことは?
顕微FT-IRを用いたマイクロプラスチックの分析において、サンプルの前処理とサンプル分析の自動化が非常に重要な課題です。顕微FT-IRによるマイクロプラスチックの測定では、フィルター上に捕集されたマイクロプラスチックを顕微透過法または顕微反射法で測定します。環境中で採取されるマイクロプラスチックサンプルには、採取場所によりますが、無機系(砂など)、または有機系(昆虫、植物など)の夾雑物を多く含む可能性が有り、これらのほとんどが赤外吸収を有します。そのためフィルター上にマイクロプラスチックと上記の夾雑物が混在した状態では、目的のマイクロプラスチックの定性が妨げられるため、夾雑物を取り除くための前処理が非常に重要となります。
また、マイクロプラスチックの分析では、測定対象となるマイクロプラスチックの個数が非常に多くなるケースがあるため、1つずつ測定と解析、レポート作成を行うと膨大な時間が必要となります。このため、フィルター上に捕集されたマイクロプラスチックを効率的に測定するために、分析の自動化も重要となります。
ここでは顕微FT-IR「Thermo Scientific™ Nicolet™ RaptIR」用ソフトウエアの機能である粒子解析を用いてマイクロプラスチックを自動で分析した例を紹介します。

Nicolet RaptIR顕微FT-IR
マイクロプラスチックの分析方法
サンプル準備
環境中から採取されたマイクロプラスチックは前処理によって夾雑物を取り除いた後、プラスチック粒子の大きさによってさらに分けられます。その後フィルター上に捕集し、顕微FT-IRで測定を行います(図1)。使用されるフィルターはPTFEやアルミナ、SUS、Siなどがあります。フィルターには赤外吸収の範囲が狭いもの、顕微鏡で観察しやすくしわになりにくいものが適しています。

図1 マイクロプラスチック分析の手順の概要
顕微FT-IRでの分析方法紹介
顕微FT-IRでマイクロプラスチックを分析する場合、観察画像からプラスチック粒子の識別を行い、各粒子を個別に測定を行う「粒子解析」と、指定範囲内全面の測定を行い、得られたスペクトルからプラスチック粒子の判別を行う「マッピング(イメージング)」の2種類の方法があります。
粒子解析を行う場合、フィルターの種類によっては明瞭な粒子のコントラストが得られない場合もありますが、Siフィルターを用いることでマイクロプラスチック粒子を鮮明に観察することが可能です。図2にNicolet RaptIRの4倍対物レンズで観察したSiフィルター上のマイクロプラスチックサンプルを図示します。補修されたマイクロプラスチックは200 μm未満で、10 μm以下のマイクロプラスチックにおいても鮮明に観察することができています。実際の測定ではさらに高倍率の15倍カセグレンで得られた観察画像から、Nicolet RaptIRの測定・解析用ソフトウエア「Thermo Scientific™ OMNIC Paradigm」によって自動で粒子の識別を行い、Siフィルター上の各粒子の顕微透過測定を行います。

図2 Siフィルター上に捕集されたマイクロプラスチックの顕微鏡観察画像
(サンプル提供:国立環境研究所さま)
Siフィルター上のマイクロプラスチックの測定と解析
観察画像から粒子解析を実施
図3に、図2に示したSiフィルターの15倍カセグレンを用いた顕微鏡観察画像を示します。図中に示した十字印は測定場所を表しています。OMNIC Paradigmの粒子解析により設定された測定点数は45点で、波数分解能8 cm-1、積算回数64回で測定を行い、全測定時間は15分未満でした。粒子解析では各粒子サイズに合わせてアパーチャーサイズを設定し、測定を行います。
図4にサンプルから得られたスペクトルを示します。全粒子測定後、各粒子から得られたスペクトル全てに対してライブラリー検索を行い、それぞれの検索結果からプラスチックの種類を判別し、プラスチックの種類ごとの個数と観察画像中のプラスチックの色分け、各粒子の検索結果と粒子サイズ、観察画像をレポートにまとめて出力が可能です(図5~7)。

図3 測定に使用したSiフィルター上のマイクロプラスチックの顕微鏡観察画像(15倍対物カセグレン)

図4 測定から得られたマイクロプラスチックのスペクトル

図5 測定後にプラスチックの種類で色分けされたサンプルの観察画像のレポート画面

図6 測定から得られたマイクロプラスチックの種類と個数、色分けの表

図7 それぞれのマイクロプラスチックのライブラリー検索結果と粒子サイズ、粒子の画像のレポートの一部
まとめ
今回紹介したNicolet RaptIRの粒子解析機能を使用すると、測定からレポート作成までを非常に簡単に短時間で行っていただくことが可能です。また、今回測定したマイクロプラスチックより大きいサイズの測定に使用されている、FT-IRと1回反射ATRの測定データをまとめるためのマクロプログラムや、環境中の劣化したプラスチックの定性に有効な劣化プラスチックライブラリーなどもあり、それらを組み合わせ幅広いサイズのマイクロプラスチックの分析を簡便に行っていただくことが可能となります。
サンプルをご提供くださった国立環境研究所さまに厚くお礼申し上げます。
参考文献
1. Rochman, C.& Hoellein, T.2020 Science, 368, 1184-1185.
関連情報
FT-IRNicolet RaptIR紹介カタログ
アプリケーションノート Nicolet RaptIR FT-IR顕微鏡を使用したマイクロプラスチックの識別
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