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代謝物質のアノテーションを網羅解析で行う新手法
メタボロミクス(メタボローム解析)は、生体内の代謝物を網羅的に把握・定量(アノテーション)し、生化学的な状態や機能の変化を理解することを目的としています。特に網羅的なメタボローム解析は、実験サンプルグループ間でできるだけ多くの代謝物のグローバルな比較を得ることに重点を置いています。しかし、複雑な生物学的抽出物中に存在する何千もの化学的に多様な代謝物を堅牢かつ包括的にアンターゲット解析することは、技術的に困難でした。
メタボロミクス(メタボローム解析)において、長い間課題とされてきた代謝物同定における網羅的な分析について英国オックスフォード大学化学部(Department of Chemistry, University of Oxford)のグループが行っている手法をご紹介します。
網羅解析の問題:生物学におけるアノテーションの困難さ
そもそも、なぜメタボロミクス(メタボローム解析)を行う上で、何が網羅的な解析(代謝物同定)を難しくしているのでしょうか。
大きく分けて3つの課題があるとされています。
複数のクロマトグラフィー手法の併用
第一に、一般的なメタボロミクス(メタボローム解析)においては、複数のクロマトグラフィーアプローチが必須とされていることがあります。複数のクロマトグラフィー手法を適用することで、より包括的な分析が可能になりますが、その一方で各クロマトグラフィーメソッドによって異なる物理的性質、化学的性質に選択性があるため、代謝物を単一手法で網羅的に分析することは困難となるためです。
分析の再現性
メタボロミクスの網羅解析では、対照群と被験群を比較し、その代謝物プロファイルの違いを明らかにするため、分析再現性と厳密なデータ解析が不可欠です。分析再現性が高ければ、データが生物学的な差異を直接表現しているという信頼性が高まります。また、過去に測定した化合物の同定には、保持時間の安定性が不可欠です。
構造異性体の判別
実験グループ間のデータ比較の後、何千もの未知化合物の特徴を特定することが課題として残されています。正確な質量と同位体のパターンは、分子式の予測に使用することができます。しかし、生物学で見られる低分子に多く含まれる構造異性体は、識別が困難な場合があります。
IC-MSによる網羅解析(アンターゲティング分析)による成果
エネルギー変換、核酸代謝、糖質代謝などの一次代謝プロセスに関連する代謝物の多くは、高極性または負に帯電しています。高極性代謝物やイオン性代謝物の分析には、親水性相互作用液体クロマトグラフィー質量分析法(HILIC-MS)、イオンペア試薬を使用した質量分析法(IP-MS)、誘導体化を必要とするガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)などが主に用いられてきました。しかし、堅牢で再現性の高いカバレッジを達成することは、メソッドやサンプル前処理の要件により困難な場合があります。
英国オックスフォード大学化学部のグループはイオンクロマトグラフィー質量分析法(IC-MS)を活用し、このような代謝物の分析において、広範で再現性の高い分析アプローチを提供することができることを発見しました。IC-MSは、幅広い物質の分離、同定、定量が可能になることで知られている手法です1。
IC-MSが提供する保持時間の安定性は、標準物質などの化合物を以前に測定したことがある場合の同定に欠かせないものですが、ICの保持時間は、これまで使用してきた他のタイプのクロマトグラフィーよりも再現性が高く、化合物の同定をサポートするために信頼できる結果を出すことができます。
また、以前に分析したことのない化合物の場合でも、ICの保持時間は構造に対して高い選択性を持ちます。そのため、特定の異性体を確実に分離して同定できるため、時間のかかる試料の誘導体化、ガスクロマトグラフィーを行う必要もありません。
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参考文献
1. Judith B. Ngere, Kourosh H. Ebrahimi, Rachel Williams, Elisabete Pires, John Walsby-Tickle, and James S. O. McCullagh, Ion-Exchange Chromatography Coupled to Mass Spectrometry in Life Science, Environmental, and Medical Research
https://pubs.acs.org/doi/pdf/10.1021/acs.analchem.2c04298 (accessed Mar. 3, 2023)
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