はじめに
DNAやRNAのサンプルは凍結保存が推奨されますが、使用するときには融かす必要があります。当社で開催しているハンズオントレーニングでも、DNAやRNA溶液を融かしたときにはしっかりと混合するようにお伝えしています。これは、ただ融かしただけでは溶液中に濃度のむらが生じると考えられ、精度の高いデータを得ることができなくなるためです。
では、融かしたあとに混合しないと、実際にどれくらい影響が出るのでしょうか?それを確かめるため、今回はDNAサンプルを凍結融解した後、混合せずにリアルタイムPCRにかけてみました!
材料と方法
材料:
・cDNAサンプル(HeLa細胞由来、1 ng/µL)
・Applied Biosystems™ TaqMan™ Fast Advanced Master Mix
・Applied Biosystems™ TaqMan Gene Expression Assays(GAPDH)
・Applied Biosystems™ QuantStudio™ 5 リアルタイムPCRシステム
方法:
・フリーザーで十分に凍結したcDNAサンプル30 µL(チューブ2本)を、室温で静置して解凍。
・1本のチューブはボルテックスで2秒間しっかりと混合してSample 1とした。
・もう1本のチューブは、静置したまま表層部(Sample 2)、中層部(Sample 3)、底層部(Sample 4)から6.6 µLずつ分取して各サンプルとした(図1)。
・リアルタイムPCR反応液は定法に従い、TaqMan Fast Advanced Master MixとTaqMan Gene Expression Assays(GAPDH)を用いてcDNAは2 ng/well(2 µL/well)、反応液量は20 µL/wellとなるように調製。
・QuantStudio 5 リアルタイムPCRシステムを使用し、n=3で実施。
・得られたCT値のデータから各サンプルの定量値を概算した。
結果
リアルタイムPCRの増幅曲線を見ると、あきらかに各サンプル間でずれていることが分かります(図2)。CT値を見ても、最大でおよそ2程度の差がありました(表)。
各サンプルの定量値の算出は、しっかりと混合したSample 1を基準値1として、CT値1の差が2倍量であるとして計算しました(図3)。
結果として、よく混合しないと1本のチューブ内でも大きく濃度差が生じ、表層部は薄く、底部が高濃度になることが分かりました。定量値に換算すると、最大で4.1倍(Sample 2:表層とSample 4:底層)もの差が生じてしまいました。しっかりと混合したSample 1と比較しても、1.4(Sample 4:底層)~2.9倍(Sample 2:表層)の差が見られました。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
DNAやRNA、もしくはその他のサンプルでも、凍結することは長期保存するために非常に有効な方法です。しかし、ただ融かすだけでは濃度にむらができてしまい、せっかくの実験結果が正しく得られないことが分かりました。またサンプルだけなく、凍結保存している反応試薬でも同様に凍結融解は濃度のむらができると考えられます。融解した溶液は、しっかりと混合してからお使いください。
当社ではRNA抽出やリアルタイムPCR、細胞培養、ウェスタンブロッティングなど、実際に実験(実習)を行いつつ学べるハンズオントレーニングを各種開催しています。
その中で今回のような実験結果もご紹介していますので、これから新しい実験を始められる方、より理解を深めたい方はぜひご参加ください!
研究用にのみ使用できます。診断目的およびその手続き上での使用はできません。