PCRは、非常に簡便な作業でDNA断片を大量に得られる基礎技術です。そしてPCRの実験は、机上でデザインをすることで80%以上の成功を導ける数少ない技術です。今回は、PCRの技術的なポイントや、失敗しないPCRデザインについてご紹介します。
PCR産物に求めるものは何ですか?
収量と特異性
収量が高いというのは、PCR効率が高いと換言できます。そもそもPCRは微量の核酸を現在の分析技術で解析できるように増幅させる技術であるため、たくさんのPCR産物を得ることができるのは、解析において大きなアドバンテージです。
もちろん酵素活性を上げれば、収量も上がるのですが、目的のPCR産物以外のものも増幅され、特異性が低下する可能性があります。
つまり、酵素活性をパラメータに考えると、収量と特異性は表裏一体の関係にあるといえます。
鎖長の長さ
90年代中盤から、長鎖のPCR産物を得ることができるLong PCRという技術が普及し始めました。この革新的技術は2つの大きな工夫がなされた結果です。1つ目はPCR酵素を2種類混合させて、酵素の合成間違いを低減させたことです。2つ目は、バッファーの開発です。2種類の酵素に対応させる以外に、温度が上下するバッファーは、酸解離定数により温度によってpHが変わります。酵素活性とpHの関係は申しあげるまでもありませんが、それ以外に核酸のプリン環が開裂する損傷が起こります。これが起こると酵素はもはや塩基を認識できずに、伸長反応は完全に止まります。Long PCRのバッファーは、このようなpHの変動を抑えるような工夫がなされています。
しかし、PCRの原理から考えれば、この技術革新はPCRを理想的な条件に近付けたと言え、酵素の読み間違いと核酸の損傷がPCRの増幅鎖長を制限していたと言い換えることができます。 一般にPCR酵素を混合しないPCR試薬の場合は、PCR産物の鎖長が2kb程度まで、それ以上の長さを求める場合は、混合酵素のPCR試薬の選択が望ましいです。
PCR産物の正確さ(フィデリティ)
正確さはフィデリティというパラメータで表現されます。PCR酵素は1分間に2~4kbを合成します。非常に高速に合成をおこなっていることが分かります。しかしその反面、誤った塩基で合成してしまうこともあります。正しく合成される頻度をフィデリティと言います。この値はPCR条件によって異なるので、一概に言えないのですが、一般的には、塩や添加剤などで酵素活性を上げたり、基質であるdNTP濃度を高くしたり、伸長反応の温度を上げたりするとフィデリティは下がります。逆にいえば、収量は落ちますが塩や基質を最小限度にすることで合成間違いの少ないPCR産物が得られます。
収量、正確さ(フィデリティ)そして特異性
PCRの性能として、収量と正確さ(フィデリティ)は重要ですが、これまでにも記しましたが、一般には収量とフィデリティ・特異性は相反する要求です。しかし収量とフィデリティを両立する解決策が、Long PCRの技術である酵素のブレンドです。ブレンド酵素は高性能であるために比較的に高価ではありますが、収量とフィデリティの両立を求める実験には最適です。
さて、フィデリティと特異性は似て異なります。フィデリティは、合成の正確さで、特異性はPCR産物が単一のものであるかということです。収量と特異性の関係は、酵素自身の活性が影響しますが、それ以上に関係するのがプライマー自身のデザインです。プライマーのデザインに関しては次回ご紹介します。
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