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【やってみた】逆転写酵素SuperScriptのIIとIIIとIVは違うのか?実際に逆転写してリアルタイムPCRの結果を比較してみた

Written by LatB Staff | Published: 05.17.2022

逆転写とは、RNAをcDNAに変換することであり、RNAをサンプルとする分子生物学実験では非常によく実施されています。アプリケーションの例としては、逆転写PCR(RT-PCR)、逆転写リアルタイムPCR(RT-qPCR)、クローニング、マイクロアレイ、RNA-seqなどと多岐に亘ります。そもそも逆転写酵素は、レトロウイルスの必須増殖因子として発見されました。生命体における逆転写酵素の一般的な役割の1つとして、RNA配列をcDNAに変換してゲノムの別の領域に挿入できるようにすることが挙げられます。

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  • はじめに
  • 材料と方法
  • 結果と考察
  • まとめ
    • 分子生物学教室PDF版 無料ダウンロード

はじめに

Invitrogen™ SuperScript™ 逆転写酵素シリーズは、1990年代からお客さまにご使用いただいております。これまでに改良を重ね続けており、現在SuperScript は下記の3種類を提供しています。
Invitrogen™ SuperScript™ II Reverse Transcriptase(以降、SS2と標記)
Invitrogen™ SuperScript™ III Reverse Transcriptase(以降、SS3と標記)
Invitrogen™ SuperScript™ IV Reverse Transcriptase(以降、SS4と標記)

SS2→SS3→SS4というように順次開発し、アップグレードしてきました。では、それぞれの逆転写酵素はどこが改良されてきたのでしょうか??

SS2からSS3への改良
・高温での熱安定性を付与し(50 ℃)、2次構造を持つRNAに対応

SS3からSS4への改良
・夾雑阻害物質への耐性を付与し、安定した逆転写を実現
・さらなる熱安定性を付与し(55 ℃まで)、より高度な2次構造を持つRNAにも対応
・逆転写反応を加速し、わずか10 minで高収量のcDNAを回収可能

SS2→SS3→SS4と機能が向上されてきたのですが、逆転写の効率は異なるのでしょうか?なんとなくですが、最新の酵素であるSS4は、逆転写効率も高そうなイメージです。そこで今回は、SS2、SS3、SS4を使用して同じ条件で逆転写し、そのcDNAをテンプレートにリアルタイムPCRを実施することでSuperScript 逆転写酵素シリーズを比較してみました。

材料と方法

材料:
HeLa細胞からInvitrogen™ PureLink™ RNA Mini Kitを用いてTotal RNAを抽出しました。抽出したRNAの濃度・品質は、Thermo Scientific™ NanoDrop™ OneCを用いて確認しました。濃度は252.6 ng/µL、A260/A280は2.05、A260/A230は2.21でした。また、Agilent™ 2100 バイオアナライザ(RNA6000ピコキット)で算出したRIN値は9.70でした。

逆転写酵素は以下の3種類を使用しました。
Invitrogen™ SuperScript™ II Reverse Transcriptase(製品番号:18064022)
Invitrogen™ SuperScript™ III Reverse Transcriptase(製品番号:18080093)
Invitrogen™ SuperScript™ IV Reverse Transcriptase(製品番号:18090010)

方法:
逆転写反応は酵素によって若干プロトコールが異なっています(表1)。

今回は、上記SS2のプロトコールである42 ℃で50 minの条件と、SS4の55 ℃で10 minという条件で逆転写を実施しました。SS2とSS4のプロトコールでは、逆転写温度と時間の他に、DTTの終濃度が異なっています。5×Bufferはそれぞれの逆転写酵素に添付のものを使用し、それ以外のOligo d(T)20 primer、Total RNA、dNTP、Nuclease Free Water、DTT、RNaseOUT RNase Inhibitorは別途準備して共通のものを使用しました。RNAの使用量はSS2の下限である1 ng/20 µLと、100 ng/20 µLの2パターンで実施しました。逆転写したcDNAは、次の実験に使用するまで-20℃で保存しました。

逆転写酵素の違いによる影響は、リアルタイムPCRで評価しました。

リアルタイムPCR反応液 (μL)
Applied Biosystems™ TaqMan™ Fast Advanced Master Mix 5
Applied Biosystems™ TaqMan Gene Expression Assay (20x) GAPDH 0.5
Nuclease-Free Water 2.5
Subtotal 8

※ウェル間で調製誤差が生じないようにするため、必要本数分まとめて調製しました。

cDNA(10 ng/well もしくは 0.1 ng/well) 2
Total 10

ここでRNAとcDNAの濃度を確認しておきたいと思います。逆転写後のcDNA溶液には、逆転写酵素やRNA残渣、dNTPなどが含まれているので、正確な濃度測定が困難です。そのため、使用したRNAが100% cDNAに変換されたと仮定して、等価換算でcDNA濃度を算出するのが一般的です。
RNA 100 ng/20 µL→cDNA 100 ng/20 µL(5 ng/µL)
RNA 1 ng/20 µL→cDNA 1 ng/20 µL(0.05 ng/µL)
これらそれぞれを2 µL/wellで使用するので、10 ng/wellもしくは0.1 ng/wellのcDNAをテンプレートとしてリアルタイムPCRを実施しました。

リアルタイムPCRシステムは、Applied Biosystems™ QuantStudio™ 5 Real-Time PCR System, 384-wellを使用し、Fast モードに設定して下記条件でランを実施しました(n = 12)。

1. 95 ℃ 20 sec
2. 95 ℃ 1 sec
3. 60 ℃ 20 sec
※2と3を40 cycle 反復

結果と考察

それでは、結果を確認してみましょう。

SS2のプロトコールに従い42 ℃で50 min逆転写したサンプルの増幅曲線を確認すると、10 ng/wellと0.1 ng/wellの2つの増幅曲線が確認できました(図1)。それぞれの条件のテクニカルレプリケートは12反復で実施しました。cDNAテンプレート量が多い10 ng/wellは左側の36本の曲線、テンプレート量が少ない0.1 ng/wellは右側の36本の曲線です。テンプレート量の違いははっきりしていますが、逆転写酵素の違いは増幅曲線からは読み取れません。
次に、SS4のプロトコールに従い55 ℃で10 min逆転写したサンプルの増幅曲線を確認すると、3つの増幅曲線が確認できました(図2)。こちらもテクニカルレプリケートは12反復で実施しました。一番右のピンクの増幅曲線は、1 ngという比較的少量のRNAをSS2にて55 ℃で10 min逆転写したcDNAを用いた結果です。SS2の通常の逆転写条件は42℃、50 minですので(表1)、55 ℃、10 minは高温で短時間ということになります。またSS2は、SS3やSS4と比較して熱安定性が低いです(SuperScript II と III の比較)。このため逆転写効率が低下してしまい、増幅曲線のCT値が高くなった(増幅曲線が右にシフト)と考えられます。

定量結果をもう少し詳しく比較してみましょう。
リアルタイムPCRの定量値であるCT値を図にまとめました。42 ℃で50 min逆転写した結果が図3左、55 ℃で10 min逆転写した結果が図3右です。また、図3のCT値の数値を表2にまとめました。
先ほど増幅曲線で確認した通り、42 ℃で50 minで逆転写した結果、テンプレートcDNAの使用量に起因する差は見られますが、逆転写酵素の違いによる差は見られませんでした(図3左)。また、55 ℃で10 min 逆転写した結果、少量のRNAをSS2で逆転写したサンプルのCT値がSS3とSS4と比較して目立って高くなっていました(図3右)。CT値の平均は、SS2が28.1、SS4が25.4なので、その差は2.7サイクルでした。PCRの原理から1サイクルで2倍の差なので、約6.7倍のテンプレート量の差であると計算できます。このようなSS2の逆転写効率の低下は、本来の逆転写温度である42 ℃から13 ℃も高い、55 ℃で逆転写したために逆転写酵素活性が低下したことを示唆しています。一方で、より多い量のRNAを逆転写した結果では、SS2の高温における逆転写活性の低下は顕著ではありませんでした(図3右)。しかし、CT値の平均値としては、SS2は19.0、SS3は18.8、SS4は18.5だったので、多少は高温による影響が表れたのかもしれません。

 

まとめ

いかがでしたでしょうか。
今回は SuperScript 逆転写酵素を比較してみました。感想としては、SS2とSS3とSS4で、リアルタイムPCRの結果に思いのほか大きな差は出ないのだなと思いました。異なるSuperScript 逆転写酵素を使用しても安定した定量値を得られる1つの良い例になったかと思います。一方で、今回の実験条件では、RNAの2次構造や夾雑物の混入の影響、逆転写可能なRNAの長さなどについては検討しませんでした。SS4ではわずか10 minという短時間の逆転写でも9 kbまでのRNAを逆転写可能ですが、SS3では短時間ではそこまでの長鎖を逆転写できません(SuperScript III と IV の比較のページの図4)。

SS4は、RNAの高度な2次構造にも対応できる高温安定性を有し、夾雑阻害物質への耐性が大幅に向上しており、転写反応時間を50 minから10 minに短縮できる、高機能な逆転写酵素です。これを機会に、最新のSuperScript 逆転写酵素であるSS4へのアップグレードはいかがでしょうか?SuperScript 逆転写酵素をお使いいただく際には、必ずお使いの酵素の取扱説明書に従って実験を進めていただければと思います。

当社ではRNA抽出やリアルタイムPCR、他にも細胞培養、ウェスタンブロッティングなど、実際に実験(実習)を行いつつ学べる各種ハンズオントレーニングを開催しています。その中で今回のような実験結果もご紹介していますので、これから新しい実験を始められる方、より理解を深めたい方はぜひご参加ください!

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今回の記事に関連する過去の記事:
逆転写教室:概説
逆転写教室:最も一般的な6つのアプリケーション
逆転写反応のトラブルシューティングガイド
SuperScript IV 逆転写酵素
SuperScript II と III の比較
SuperScript III と IV の比較

研究用にのみ使用できます。診断用には使用いただけません。

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