ウェスタンブロッティングの製品選びにもう困らない!第1回:タンパク質抽出試薬

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ウェスタンブロッティングは、特定のタンパク質の発現を確認する方法として、多くの研究者に利用されています。だからこそ、市場にはたくさんの試薬や装置で溢れていますので、製品選びに迷ってしまう人も多いのではないでしょうか。

ご自身の目的に合った試薬はどれなのか?本当にその選択でうまくいくのか?その不安、このブログが解決します!

タンパク質抽出試薬の選び方

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タンパク質抽出試薬には、穏やかな条件で抽出するもの、強い界面活性剤で抽出するものとさまざまです。ウェスタンブロッティングの場合、SDS-PAGE前にタンパク質を変性させますので、穏やかな条件で抽出する必要はありません。表に、ウェスタンブロッティングにおすすめの抽出試薬をまとめました。

 

抽出方法試薬名メリット注意点
総タンパク質抽出
(Whole Cell)
SDSサンプルバッファーそのままSDS-PAGEのゲルにアプライできるため、非常に簡便総タンパク質濃度測定ができるキットが限られる
RIPAバッファー多くの文献で使用されており、比較的高い抽出効率が期待できるメーカーによって組成が異なる
分画抽出NE-PER Nuclear and Cytoplasmic Extraction Reagents細胞質タンパク質と核タンパク質を分けて抽出できる
多くの文献で使用されている
核内でゲノムに強く結合しているタンパク質は抽出できない
Mem-PER Plus Membrane Protein Extraction Kit細胞質タンパク質と膜タンパク質を分けて抽出できる膜貫通回数が多いタンパク質は難しいことがある

※その他の分画抽出キットはこちら

Whole Cellからの抽出には、SDSサンプルバッファーが便利
ウェスタンブロッティングのための総タンパク質抽出には、SDSサンプルバッファーは非常に便利です。これを使えば、SDS-PAGE前にサンプルとSDSサンプルバッファーを混ぜるステップが省略できるためです。

SDSサンプルバッファーはその組成からさまざまなサンプルにおいて高い抽出効果が期待できますが、組織や細胞壁を持つサンプルの場合は、機械的な破砕との併用が必要になります。

<SDSサンプルバッファー(Leammli SDS Sample Buffer)の一般的な組成>
65 mM Tris-HCl, 10% glycerol, 2% SDS, 0.025% bromophenol blue
※これに終濃度50 mMとなるようDTTを添加して用います。

なお、SDSサンプルバッファー内の総タンパク質濃度を測定できるキットには限りがありますが、上記組成であればThermo Scientific™ Pierce™ 660nm Protein Assay Kitが使用できます。

Invitrogen™ Bolt™ LDS Sample BufferNuPAGE™ LDS Sample Bufferは、中に含まれている色素が660 nmに吸収があるため、Pierce™ 660nm Protein Assayが使用できませんのでご注意ください

細胞質と核のタンパク質を分けて抽出できる
NE-PER Nuclear and Cytoplasmic Extraction Reagents
例えば転写因子などを研究している場合、SDSサンプルバッファーを使うと、Whole Cellから抽出するため、細胞質由来か核由来なのかわからなくなってしまいます。このように、細胞質と核のタンパク質を分けて抽出したい場合は、Thermo Scientific™ NE-PER™ Nuclear and Cytoplasmic Extraction Reagents(以降NE-PER Reagents)がおすすめです。今まで1000報近い文献で使用されてきた歴史と実績を兼ね備えた試薬です。

NE-PER Reagentsで抽出したサンプルは、Thermo Scientific™ Pierce™ BCA Assay KitPierce™ 660nm Protein Assay Kitなどでタンパク質濃度の測定ができます。抽出したサンプルを直接SDSサンプルバッファーと混ぜてSDS-PAGEもできますが、核画分のバッファーは塩濃度が高いため、4倍以上に薄めるか、バッファー交換をしてからアプライしましょう。

膜タンパク質の解析に
Mem-PER Plus Membrane Protein Extraction Kit
シグナル伝達や細胞内への輸送メカニズムの解明など、膜タンパク質の研究は今でもさかんに行われています。このように膜タンパク質を抽出したい場合に活躍するのがThermo Scientific™ Mem-PERTM Plus Membrane Protein Extraction Kit(以降Mem-PER Plus Kit)です。細胞質タンパク質と、膜タンパク質を分けて抽出が可能です。抽出したバッファーは濃度測定後、特に脱塩や透析など必要とせず、SDSサンプルバッファーと混ぜるだけでSDS-PAGEできます。

なお、タンパク質を抽出した後、粘性が高いときはサンプル中にゲノムDNAが含まれている可能性が高いです。ソニケーターを用いて分解しましょう。

プロテアーゼ阻害方法の選び方

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抽出のときに気を付けなければいけないのが、プロテアーゼの存在です。目的のタンパク質と一緒に内在性のプロテアーゼも抽出されますので、大切なタンパク質が分解されないように守ってあげましょう。

・プロテアーゼ阻害剤を用いる
タンパク質抽出のときは、プロテアーゼ阻害剤を用いましょう。よく知られたプロテアーゼ阻害剤だけでもAEBSF、Leupeptin、Bestainなど、たくさんの種類がありますので、カクテルタイプがよく使われます。

・変性剤を用いる
プロテアーゼ自身もタンパク質ですので、抽出試薬にSDSやグアニジン塩酸などの強力な変性剤が入っている場合は、これらが多くのプロテアーゼを変性させ、その働きを抑え込みます。そのため、SDSサンプルバッファーで抽出する際は必須ではありません。しかし、完全に全てのプロテアーゼが失活できるわけではないので、プロテアーゼ阻害剤を入れた方がいいでしょう。

・4 ℃で抽出を行う
プロテアーゼは37 ℃で最も活性化されることが多いです。そのため、抽出作業の間、サンプルを低温に保つことは、タンパク質の変性や分解を防ぐのに効果的です。しかし低温で活性を持つプロテアーゼも存在するため、これだけでは不十分なことが多いです。プロテアーゼ阻害剤を必ず併用しましょう。

まとめ:ウェスタンブロッティングのためのタンパク質抽出試薬の選び方

ウェスタンブロッティングのためのタンパク質抽出は、変性を気にする必要はありません。そのため、Whole Cellから総タンパク質を抽出する場合は、すぐにSDS-PAGEができるSDSサンプルバッファーが便利です。分画抽出をする場合は、NE-PER ReagentsやMem-PER Plus Kitがあります。

次回は、タンパク質を抽出した後の、「総タンパク質の濃度測定方法の選び方」についてご紹介します。

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